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フィルムセンターでは『明治の日本』がいつも見られるよの巻

2015-01-28 06:48:38 | 日記


京橋にあるフィルムセンター(正式名称:東京国立近代美術館フィルムセンター)の、展示室が好きだ。http://www.momat.go.jp/FC/HistoryofJapaneseFilm/List.html
210円で企画展示のほか、往年の撮影機材や資料などの常設が見られる。
といって、機材のことは僕もよく分からない。映画の歴史のなかを静かにウロウロする。これだけでいい。きもちがなぜか、スーッとおちつくのですね。ひょっとしたら、映画そのものを見るより好きかもわからん。

でも、展示品を補足するように、複数の小さなモニターで牧野省三、伊東大輔、溝口健二らのサイレント時期の作品や『日本南極探検』(1912)、『関東大震大火実況』(1923)などの一部が、数分だけ繰り返し再生されている。

なかでも僕の、シネフィルにも、そうでない人にもおすすめなのが、『明治の日本』。約20分強のプログラム1本を丸々視聴が可能だ。
いつ展示室に入っても駆け足で、これを全部見るのはおあずけになっていたのだが、都内でひょっこり予定していた時間が空いたとき、あ、今だ!と思いついた。

内容をメモしてきましたので、今回のブログはそのデータ紹介を中心にします。



『明治の日本』

約22分
1897~1899
フランス



【解説しますと】

リュミエール社の作品。つまり製作はルイとオーギュストのリュミエール兄弟ということになる。

エジソンが発明したキネトスコープを改良し、「動く写真」をスクリーンに映写して同時の多くの人が見られるようにしてシネマトグラフと名付けた、それゆえ映画の父と呼ばれることになったリュミエール兄弟は、世界各地に映写技師を兼ねたカメラマンを派遣した。
各地の風俗をフィルムに収めて上映カタログを増やすことと、興行者への機材のPRと、目的は2つあったようだ。

そのうち日本で撮影された、単品では1分弱でワンシーン・ワンカット(まだモンタージュの概念は発見されていない)のフィルムをまとめたものが『明治の日本』(Les Premiers Films Lumière:Japon)。1960年代にシネマテークフランセーズからフィルムセンターに寄贈された。

展示の解説では、撮影されたのは1897年から1899年。しかし『明治の日本』冒頭に付け加えられた解説では、1897年から1900年となっている。



【内訳:タイトルと撮影者】

「家族の食事」  コンスタン・ジレル
「身づくろいする日本の女」  ガブリエル・ヴェール
「日本の宴会」  コンスタン・ジレル
「日本舞踊Ⅲ.人力車に乗った芸者」  ガブリエル・ヴェール
「日本の歌手」  ガブリエル・ヴェール
「日本舞踊Ⅱ.春雨」  ガブリエル・ヴェール
「日本舞踊Ⅰ.かっぽれ」  ガブリエル・ヴェール
「日本の踊り子」  コンスタン・ジレル
「蝦夷のアイヌⅡ」  コンスタン・ジレル
「蝦夷のアイヌⅠ」  コンスタン・ジレル
「日本の俳優:かつらの練習」(※初代中村雁次郎「石橋」)  コンスタン・ジレル
「日本の俳優:剣による戦い」(※初代市川左團次「丸橋忠弥」)  コンスタン・ジレル
「日本の芝居の一場面」  コンスタン・ジレル
「田に水を送る水車」  ガブリエル・ヴェール
「稲狩り」  ガブリエル・ヴェール
「レースからの帰り」  ガブリエル・ヴェール
「神道の行列」  コンスタン・ジレル
「踊り子:扇踊り」  コンスタン・ジレル
「日本の剣術」  コンスタン・ジレル
「日本の剣士」  コンスタン・ジレル
「東京の通りⅠ」  柴田常吉
「神社の出口」  コンスタン・ジレル
「港での荷下ろし」  コンスタン・ジレル
「東京の通り」  コンスタン・ジレル
「京都の橋」  コンスタン・ジレル
「東京の通りⅡ」  柴田常吉
「東京の鉄道駅」  柴田常吉
「列車の到着」  コンスタン・ジレル


以上28本。以下は、リュミエール社のリストにはあるが『明治の日本』には含まれていないと断り付きで、解説に挙げられているもの。


「東京の並木道」  柴田常吉
「東京の広場」  柴田常吉
「日本舞踊Ⅳ.甚句」  ガブリエル・ヴェール
「日本舞踊Ⅴ.御所車」  ガブリエル・ヴェール



【撮影者について】

リュミエール社の技師コンスタン・ジレルが日本に滞在し撮影とシネマトグラフの上映を行なったのは、1897年1月から10月にかけて。
もうひとりの技師ガブリエル・ヴェールが日本にいたのは、1898年10月から99年の3月にかけて。

京都の紡績会社監査役としてフランスに渡っていた稲畑勝太郎という人物が、留学生時代に同窓だったオーギュスト・リュミエールと再会、彼にシネマトグラフを見せてもらって新たな事業になりそうだと判断、それで機材を購入し、ジレルを同伴し帰国したのが日本撮影のきっかけだ。(歴史ってこんな、ひょんな縁から始まるンだね……)

朝日新聞1993年9月26日日曜版連載「シネマCINEMAキネマ」の『明治の日本』編によると(この連載は全て切抜いてスクラップしている)、彼等技師とリュミエール社との契約内容は「各地で撮影し現像、映写会を開く。収益は会社と技師の折半」だったそうだ。

柴田常吉は、〈現存する最古の国産映画〉『紅葉狩』(1899)の撮影者としてつとに知られる。その前に撮影したフィルムは『明治の日本』で見られる、ということになる。
手持ちの本、『日本映画発達史Ⅰ』田中純一郎(1957・中央公論社)と『シリーズ日本のドキュメンタリー1 ドキュメンタリーの魅力』佐藤忠男編著(2009・岩波書店)の記述を総合すると、柴田は、東京でシネマトグラフを輸入した吉澤商店の準専属だった。京都で、個人事業としてリュミエール社の技師を招いた稲畑と、東京の柴田がどうつながったのか。あるいは別々に別々の目的で撮影されたフィルムが、後々フランスでまとめられることになったのか。ここに関しては、僕は今のところ、よく分からないです。



【内容について】

ジレルの「家族の食事」「日本の宴会」は、稲畑の自宅での撮影。カメラの前で演じてみせてくれ、と要求したろうことが、一見してよく分かる。「日本の宴会」では、三味線を弾く人と聞きながら酒を飲む人達が、フレームからはみ出さないよう肘を突き合わせ、ギュウギュウ詰めに座っているからだ。せっかくの宴会で、そんなに近くに座らないもんね。

『日本映画発達史Ⅰ』をめくっていて、えーッ……と驚いたのが、ジレルの評判の悪さ。
現像もろくに出来ない、実は来日目的はもっぱら物見遊山で遊ぶ方ばかり熱心だった、とケチョンケチョンだ。保津川の急流など撮っても使い物にならないフィルムが、幾つかあったらしい。

とはいえジレルも、リュミエール社で計何十本も撮っている人だ。そうそう特定人の証言(それがまた若き日の野村芳亭だったりするから、古い話好きはたまらないのだが)を鵜呑みにできない気もしている。ただ、後任のヴェールのフィルムのほうが、比較的精彩があるのは確かだ。

ジレルのほうは、あんまり何も考えず〈とにかくカメラの前に立って、いつものなりわいをやってみせろと言ったんだろーな感〉が伝わる。感情が薄く、即物的だ。
その良さももちろんあって、「日本の俳優:剣による戦い」の凄いスピードの殺陣の練習、「日本の剣術」の荒っぽい掛かり稽古なんか、〈史上最初のアクション映画〉と戯言で呼称したくなるほど、乾いた魅力がある。体力自慢の男達が、異人の前で張り切っている。


一方のヴェールが撮ったものには、「田に水を送る水車」「稲狩り」、それに「レースからの帰り」(村人町人がゾロゾロとどこかの見物から帰る姿。レースってなんだろうね?)の自然なスケッチに特に現れているように、農村画家的なあたたかみが感じられる。撮りたいものの選択からして、ジレルとは違う。最初期のカメラと現像技術でも、撮る人が別だと、こうもフィルムの雰囲気は変わるのか。

特におかしいというか、可愛らしいというか、なのが、三味線を弾いて歌う姐さんの立ち姿がけっこうフラフラしている「日本の歌手」と、2人の芸妓の踊りがさっぱり合わない「日本舞踊Ⅱ.春雨」。

「姐さん、あの異人さん、活動写真に出してくれるんだとさ。さあさ、一緒に踊ろうよう」
「お前だけが踊ればいいぢゃないか。わたしゃ、あんな黒くて大きな箱の前で芸を見せたかないよ。いやだいいやだい」
とかなんとかキャイキャイ大騒ぎして、「菊奴も福奴も、グズグズしないでしっかりおやり。この花街の誉れなんだからねッ」と置屋のお母さんに叱られて。あくまで想像ですけど、そんな楽しい、ウキウキしたなかで撮影されたんじゃないか、と思わせる好ましいゆるさ、軟らかさがある。

どっちも、今の花街のお師匠さんになら、相当みっちり叱られるだろうなァ……と思うほど所作がグズグズ。
大衆芸能って案外こういうものかもしれない。伝統の価値をそこに見出した途端に、~べき、~べからず、が増えてキチキチになっていくものかもしれない。

他のものも、もちろん面白い。なにせ、フィルムに焼き付けられた、リアルタイムが明治後期の人と暮しである。仏蘭西人がいじるレンズ付きの大きな機材(多くの人はまだそれが何かは知らないだろう)を、ガン見しては通り過ぎていく人々の、無骨な顔つき。
夏目漱石の作中人物達は、こんな通りを歩き、鉄道駅に行ったのだ……とどうしたって楽しく想像できる。

近代建築や衣装、世相風俗や民俗学など。学ぶ分野が違う人が見るほど、見どころが汲めど尽きぬほど出てくるだろう。

 

 


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