ボンヌ・マールを直訳すると「良き母」となるらしい。この「母」がある聖職者を指すのか、大地の恵みの根源を表すといった諸説あるそうだが、「母」の意味は使い勝手が良い。「母の日」に合わせても、お母様を亡くされた方を慰めるための贈り物としても。
パワーを感じるヴォーヌ・ロマネ村のワインに比べてシャンボール・ミュジニィ村のワインは繊細と言われている。その可憐さが人気を惹き、この村のワインはとてつもない値がつく。村の南に位置するミュジニやレ・ザムルーズはその筆頭で、ヴォギュエやルーミエのものは10万円を下らず、一般ワイン愛好家に手が届くものではない。ひと月の飲み代を投入して何とか買えるのがボンヌ・マール。ブルゴーニュに数時間足を踏み入れるチャンスを得たのでこの畑を探求してみた。
シャンボール村の北側とモレ・サン・ドニ村にまたがるグラン・クリュ、ボンヌ・マールは、2つのタイプの土壌で構成されている。拙訳書「ブルゴーニュのグラン・クリュ」によると、この畑には二つのテロワールが存在しうるとか。斜面下部の赤褐色土(テール・ルージュ)と斜面上部の白色土(テール・ブラン)の2つで、これを分かつのが斜面の途中を横切る農道の辺りだそうだ。これが可視的な土なのか、そうでないのか見るためにブルゴーニュのボンヌ・マールへと向かった。
斜面下部を眺めた写真を見ると、確かに土壌は赤褐色をしている。鉄分を多くふくむのであろうか。
斜面上部は確かに白っぽい。石灰質の含有量が高いのであろうか?
実際のところ、農道は斜面に水平ではないためであろうか、土の色が道の左右で完全に赤と白に分かれるわけではないが、それでも大まかには斜面上部と下部に顕著な違いがあるといえそうだ。
両方の区画を有するルーミエなどの生産者を訪れ、それぞれの区画のキュヴェを飲ませてもらう以外2つの区画の違いを知ることはできないため一般ワイン愛好家がこれを試すチャンスはない。それでも、両方の区画を持つルーミエとテール・ルージュのみを所有するヴォギュエのボンヌ・マールを比較試飲すればその違いを知るヒントが隠されているかもしれない。
レミントン・ノーマンは、テール・ブランの土壌はボンヌマールの南に続く一級畑レ・フュエやレ・クラとの類似性を指摘している。これらの一級畑とテール・ルージュのヴォギュエを比べてみるのもインスピエレーションを与えてくれるかもしれない。