もちろん家計は火の車

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S・キューブリック監督の『シャイニング』を、久々に観ました! ……の巻

2012年09月25日 | 映画

例によってwebをウロウロしていたら、このような記事を発見。
なんでも、英国・ロンドン王立大学の研究チームが
「数学的手法を用いて分析した」ところ、
世界最高のホラー映画=『シャイニング』ということになったのだそうで……。
『シャイニング』といえば、ず~っと以前に2回ほど観たっきり。
もはや、細部の印象が記憶からスッポリ抜け落ちたような状態である。
アカデミズムが「世界最高のホラー映画」の“お墨付き”を与えたとあっては、
久々にチェックせねばなるまい!
……というワケでこの週末、さっそく観てみた
(つ~か、ロンドン王立大学って「どんだけヒマやねん!?」って話であるが w)。

最初に一応、未見の方のため
『シャイニング』という映画について軽くご説明しておくと、
本作『シャイニング』は、世界的ベストセラー作家にして
“モダンホラー界の帝王”=S・キングの小説『シャイニング』を、
あの『2001年 宇宙の旅』や『時計じかけのオレンジ』といった
名作で知られる巨匠=S・キューブリック監督が映画化したもの。
わりと有名な話であるが、この“キューブリック版”の
映画『シャイニング』について、原作者のキングは
「みずからの小説を勝手に改変した駄作である」と
クソミソにこき下ろす発言を繰り返し、
ついには自身でメガホンをとって
再度『シャイニング』を映画化する……という挙に出ている。
ま、“帝王”と“巨匠”を組み合わせてみたら
「両雄ならび立たず」……というか、本気で
「大ゲンカが始まっちゃいました~w」みたいな話で
なんつ~か、世の中「いろいろ難しいよネ!」ってとこか(笑)。

ちなみに書くと『シャイニング』の物語は、大体こんな感じだ。

冬の間、豪雪の影響で閉鎖される
老舗のリゾート・ホテルに“管理人”として雇われた
作家志望の男(=ジャック・トランス)とその家族(妻&息子)。
白い雪に閉ざされた豪華ホテルでの暮らしを
満喫しているかに見えた一家だが、
長い歴史を誇るホテルには、実は忌まわしい過去があった。
やがて3人は、完全に孤立した環境の下、ホテルに潜む

“なにか”によって徐々に追い詰められ、極限状態に陥っていく……。

もちろん、キューブリックの映画『シャイニング』も
キングの手になる原作を大筋でトレスした内容となっており、
その意味では「原作を改変している」というキングの怒りが
どこから来ているのか、ちょっと不思議なところだったりするのだが、
その点に関する疑問は、キューブリックの映画『シャイニング』と
キングの小説『シャイニング』を比較すると氷解する。
要するに「閉鎖環境における人間ドラマ」という大筋を共有しつつ、
さきほどの“あらすじ解説”で触れた存在
=「老舗ホテルに潜む“なにか”」を「どう描くか?」という部分で、
キングとキューブリック、2人のアプローチが完全に異なっているのである。

原作となったキングの小説版『シャイニング』は、
もう、思いっきりストレートの“幽霊屋敷もの”。
かつてネイティブ・アメリカンの聖地を潰して
建てられたホテルは、その長く忌まわしい歴史の末、
滞在する人間に害悪をなす「トンデモな場所」と化しており、
冬季管理人の一家は、その“超自然的な力”の犠牲となる。
ところが……キューブリックの映画版『シャイニング』は、
完全なる“幽霊屋敷もの”だった原作に対し
「科学的&心理学的に説明のつくサイコもの」としてのテイストを付け加え、
「より幅広い解釈の余地を残した作り」となっているのである。
端的に言ってしまえば、
キングの小説『シャイニング』のキーワード=“心霊”
キューブリックの映画『シャイニング』のキーワード=“異常心理”って感じか。


これ、ネタバレになってしまうので
気になる方は、これ以上読み進まないでいただきたいのだが(笑)、
ぶっちゃけ書いてしまうと、本作における惨劇の原因は
「作家志望の冬季管理人=J・トランス」である
(ちなみに、キューブリックの映画版『シャイニング』では
主人公の管理人を怪優=ジャック・ニコルソンが演じている。
彼の神がかったキレキレの演技は、映画史上に残る名演である)。

キングの小説『シャイニング』では、ホテルに潜むゴーストが
ジャックに憑依することにより、彼の人格が徐々に崩壊していく。
「アルコール中毒」「小説が書けない」……
さまざまな問題を抱えつつも、基本的には
“よき父”“よき夫”であったジャックは、みずからにとり憑いた
邪悪な存在のパワーにより、家族に刃を向けるようになるのだ。
しかるに……キューブリックの映画で描かれる
冬季管理人=J・トランスは、一種の“自滅型”の人物である。
作家を志しているものの、かんじんの小説が書けない。
アルコール中毒で断酒しているものの、酒への渇望が消えない。……etc.
さまざまなストレスに押しつぶされそうになっているところへ
“雪で孤立した閉鎖環境”という要素が加わることで、
精神のバランスを崩したように「見えないこともない」……と、
キューブリックの映画では、そのように描かれているわけだ。

ここでミソなのが、主人公ジャックの“異常心理”という部分に
大きくシフトしているキューブリック版『シャイニング』においても、
“ホテルに巣食うゴースト=超自然的存在”という要素を
「完全に排除しているわけではない」という点である。
実際、キューブリックの映画『シャイニング』の中でも
さまざまな怪異が描かれており、そういった現象が
ジャックを精神的に追い込んでいく一因となっている
(ただ、そういった現象の多くについても
「精神の均衡を失ったジャック(→含・彼の家族)が見た幻影」として
解釈する余地を残している点が、映画版のポイントである)。

原作の小説を書いたキングとしては、
ホテルに巣食う忌まわしいゴーストの“犠牲者”として描いたはずのジャックを
ただの「精神的に問題のある人物」に置き換えられた上、
みずからの小説の裏テーマであった“家族愛”が
キューブリックの映画『シャイニング』においては
ほとんど描かれていない点が、許しがたく思えたのであろう
(そのほか、キングの小説において大きなカギとなっている
「一握りの人間だけが持つ特殊能力“シャイニング”(=輝き)」が、
キューブリックの映画でほとんど「“付け足し”程度の扱い」を受けている点も
納得できなかったのではないか。一応、説明しておくと
“シャイニング”とは、予知能力とテレパシーを併せたような超能力のこと。
実は管理人ジャックの息子(ダニー)には
この“シャイニング”が備わっており、小説版『シャイニング』では
この超能力がドラマの展開を大きく左右するのであるが、
キューブリックの映画『シャイニング』の中では
「一応、そんな能力も登場させておきますか……?」程度の
描写しかされないという(笑)。映画のタイトルは『シャイニング』なんですけどね…w)。

こういったあたり、徹底した現実主義者で
オカルトなんか「まったく信じちゃいない」という
S・キューブリック監督の「面目躍如!」といったところである。
(なんでも、『シャイニング』の撮影中、原作者のキングに
電話をかけたキューブリックは「キミは、神を信じるのか?」と質問。
キングが「もちろんだとも」と答えるや電話を切り、
作品中の神秘的シーンをどんどんカットしていったんだとか www)。


……いや~、長くなってしまった。そろそろ結論。

そのようなリアリスト=キューブリック監督が撮った
映画『シャイニング』は、本当に「世界最高のホラー映画」なのか、どうか……。
ま、ロンドン王立大学の皆さんの言い分は別として(笑)、
ブログ主としては「ベスト5に入るくらいには、よくできたホラーですよ」と、
そのように評価するものである。なぜならば……
映画本編のラスト。本当に“最後のシーン”において、
キューブリックは“ある仕掛け”を施しているのである。
たった1枚の写真を利用した、なんともニクイ演出……。
主人公のジャックを狂気へ走らせたものが何だったのか、
その写真を「どう解釈するか?」によって、結論が出る仕組み。
あのラストシーンは、本当に見事だと思う。
気になる向きは、ぜひともキューブリックの映画『シャイニング』を
ご覧になったうえ、自分なりの解釈ってヤツを試みていただきたい。
つ~か、キングってば、あのラストを観た上で「なお」、
キューブリックの映画を認められないのかなぁ……。なぜ???


PS.
最後に、『シャイニング』豆知識を1つ……。
物語の舞台となるホテルには、怪奇現象の起こる客室がある。
この客室、原作小説では「217号室」となってるのだが、
キューブリックの映画では、なぜか「237号室」に変更されている。
実はこれ、映画『シャイニング』撮影時にホテル外観のモデルとなった
米・オレゴン州の「ティンバーライン・ロッジ」
「217号室=オバケの出る部屋」というイメージが定着することを恐れ、
実際には存在しない部屋番号に変更させた、という経緯があるらしい。
ま、どーでもいいコトではあるんだけど、ちょっと趣き深い話だよね、コレ(笑)。


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