発明的創造の心理学について
発明的創造の心理学について
G.S.アルトシュラー、R.B.シャピロ(バクー市)
雑誌『心理学の諸問題』第 6 号、1956 年、37~49 頁
翻訳:産業能率大学 総合研究所TRIZセンター 黒澤 愼輔
http://www.hj.sanno.ac.jp/files/cp/page/5973/altshuller.pdf
以下抜粋と参考資料追加による整理
創造過程のスキームを次の形で示すことができる。
Ⅰ. 分析段階
1. 課題の選択
発明者の課題は、たまたま視野に入ってきたテーマ を機械的に選択することではなく、対象とするシステムの発展のダイナミックスを創 造的に研究し、そのシステムの全般的発展に対するブレーキとなっている、現段階に おける決定的な問題を発見することにある。
2. 課題の最重点の確定
ジェームス・ワットによる改良式蒸気機関の発明は、最重点の課題を的確に発見し た古典的なケースといえよう。ワットは蒸気機関の改良という課題を設定した上で、 当時存在した蒸気機関のすべての特性を詳細に分析した。当時の蒸気機関には、ボイ ラーの寸法・重量の過大さ、爆発の危険、シリンダー内での膨大な熱損失、動力伝導 装置の不備など、多数の重大な欠点があった。この中から、ワットはシリンダー内の 熱損失の低減、したがってまた機関の全般的効率の向上を課題の最重点として特定し たが、これは適切であったといえる。ワットの功績によりこの特性が改善されたこと によって、十分に高い出力を備えた蒸気機関を作ることが可能となった。ワットはさ らに、蒸気機関を汎用化するという新たな課題を設定した。改良された蒸気機関は出 力としては、当時の社会で必要とされる条件を満たしていた。他方で、蒸気機関のア ウトプットは実際上めったに利用されない往復運動である。そこで、汎用化の最重点 は伝動装置の改良となった。ワットは課題の重点をこのように移動させて、往復運動 を円運動に転換してアウトプットとする伝動装置を創出して、機関に要求される汎用 性を実現することができた。
3. 決定的矛盾の発見
分析段階は技術的創造の諸段階の中で最も「論理的」な部分である。経験豊かな発 明者は、この段階で、歴史的、統計的、技術的、経済的事実やその他の事実を出発点 として、様々な判断の論理的積み上げを行う
4. 矛盾の直接原因の確定
発明能力を発達させるためには、
分析スキルの恒常的訓練が必要 である。
Ⅱ. 操作段階
操作段階は論理的操作と非論理的操作との組み合 わせとなっている。この時、発明者は探求し、試行し、あるいはあまり正確でない古 い用語を使えば、「思考実験」を進めなければならない。
我々の見解によれば、この段階における最も合理的な作業プロセスとは、
技術的矛盾の原因の除去方法の探究を、次の順序で進めるものである。
1. 典型的解決法(原型)の研究
a) 自然的(自然の中に存在する)原型の応用
b) 他の技術分野の原型の応用
2. 次の各部の変更によって
解決をもたらす新たな方法の探求
a) システムの範囲内における変更
b) 外部環境における変更
c) 隣接システムにおける変更
この順に従うと、考察は単純なものから順次複雑なものへと進んで行き、
これによ って最小限の労力と時間で正しい解決を得ることが可能となる。
操作段階を成功裏に遂行する上で不可欠な資質は、
自然に関する豊かな知識、観察 力、隣接技術分野に関する知見、
実験技法を駆使し得る能力である。
Ⅲ. 総合段階
1. システムの変化から必然的に帰結する変更の導入
2. システムの変化が必然的に伴う使用方法の変更
3. 原理の他の技術課題の解決への応用する可能性の検討
4. 発明の評価
上に輪郭を示したスキームは、
経験を積んだ高度に熟練した発明者による
創 造的活動についてのみ当てはまるという点を指摘しておく必要がある。
かけだしの発 明者の場合は、
通常、個々の判断に十分な論理的整合性が欠けており、
偶然性、まぐ れ当たり等々が大きな役割を果たしている。
これとは逆に、過去の偉大な発明者は高 水準の創造技能に達していた場合が多い。
実践こそが 発明的創造の心理学の最終目的であるからである。
認識された法則性は、発明活動の 科学的方法論の開発に利用されなければならない。