こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『富士正晴 1913-1987』(富士正晴・ちくま日本文学全集)

2015-06-13 | 近代小説
けれど丁玲はそれを書いて死なず、久坂葉子は死んだ。それは自分の生活難に
敵対したか、溺れたかの違いであろう。(
「久坂葉子のこと」)


 昭和の文豪?の作品が読みたくて、ぱっと手にとったのがこれだった。大昔に小説を読んだか読まな
かったか。これは私小説3割、随筆や評論7割といったところか。富士正晴という人となりを初めて知
れた。
 冒頭の小説2作は、飄々とした筆致で、昭和の薫り濃く人物も濃すぎるほど濃く、「うわ~おもしろ
い!」と興奮したのだが、その後に続いた戦記物?は辛かった。戦場では人命も性もこんな扱いだった
んだ・・・淡々と書き連ねられる日常があまりに異常で救いがない。でもこんな時代があったことは、
事実として受け止めねばならないのだろう。
 そして文学に傾倒した日々を綴った自伝的随筆では、若かりし日に師匠と崇めた人を、そして同士と
して認め合った久坂葉子という女性を自殺というかたちで喪ったことがこの人の心に大きな楔を打ち込
んだことを知る。同様の海外の女性作家と比較しながら、彼女はなぜ死ななければならなかったかを冷
静に分析した随筆は、無念が伝わった。で、さらに年を経て書かれた「軽みの死者」の人との距離感が
かなか小気味よく。ことに久坂葉子の母の死がとても幸せに書かれていて、ほっとした。
 富士氏は変わり者で不器用で面倒臭がりにもほどがあり、薄汚れて格好悪い。けれど、情があっておも
しろい人だと思った。やっぱり生き方そのものが文学してるんだよなあ。

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