2011/10/19 JCASTニュース
「民間並み」を掲げて引き下げが続いているのが公務員給与だが、これまで見逃されてきたのが退職金の「官民格差」だ。人事院は2005年の実態調査をもとに「民間とほぼ同水準」などと主張を続けてきたが、試算の前提に疑問を投げかける声も多い。ここにきて、公務員の退職金引き下げを前提に、民間の退職金についての調査に改めて乗り出すことになった。
人事院が行った05年度の実態調査によると、民間企業で20年以上勤務した人の退職一時金と生涯に受け取る企業年金額の合計は、1人あたり2980万円。これに対して国家公務員は、退職手当と上乗せ年金に当たる「職域加算」を合計すると、計2960万円。このことから、人事院は「民間と公務員の退職給付は同水準」との主張を続けてきた。
調査対象の民間会社は、従業員が50人以上いる事業所だけ
だが、このデータには、大きく2つの「カラクリ」があるとされる。ひとつが、その内訳だ。民間は退職一時金が1445万円で企業年金が1535万円。ほぼ半分ずつなのに対して、国家公務員には退職手当が2740万円で職域加算が220万円と、大きく内容が異なっている。
このことから、自民党の河野太郎衆院議員などが2010年に、
「企業年金が無く退職一時金のみを支給している民間企業の退職一時金と、国家公務員の退職手当を比較したらどうなるか」
についての調査を人事院に依頼したところ示された結果は、民間の退職一時金が2420万円なのに対して、国家公務員の退職手当は、前出のとおり2740万円というもの。国家公務員の方が300万円以上高いという「官民格差」が浮き彫りになっている。
二つ目が、人事院が調査対象にしている民間の会社は、従業員が50人以上いる事業所に限られているという点だ。06年の「事業所・企業統計調査」(総務省統計局)によると、国内の民間事業所のうち、50人以上従業員がいるのは全体の2.6%。これらの事業所に勤務する従業員数ベースで見ても、全体の37.9%しかカバーされていない。
民間の退職金は「右肩下がり」が続いている
実際、事業所の規模が小さくなると、退職金の額は大きく下がる。厚生労働省が、従業員が30人以上いる民間企業を対象に行った「就労条件総合調査」によると、07年に定年を迎えた大卒社員の退職金(勤続20年以上)は2026万円。この調査によると、97年が2868年、02年が2499万円で、「右肩下がり」が続いている。これは、民間の給料が下がっているのと連動しているためだ。これに対して、国家公務員の退職手当は03年以降改定されておらず、ほぼ横ばい。この点でも、格差が指摘されている。
国家公務員の人件費をめぐっては、民主党が政権交代を果たした09年夏の衆院選のマニフェストで「13年度までに総額2割減」を掲げており、菅直人政権でも片山善博前総務大臣が、たびたび退職手当引き下げの必要性に言及してきた。これを受ける形で、人事院は11年10月3日、民間企業約6300社に対して、退職給付の水準について調査を行うことを発表した。調査は10月11日から11月30日にかけて行われ、調査結果は11年度末にもまとまる見通し。この結果を踏まえて、12年春の通常国会に関連法案を提出し、13年度からの引き下げを目指す。