からくの一人遊び

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UNIDOTS - 東京の精神 (Official Lyric Video)

2021-09-07 | 小説
UNIDOTS - 東京の精神 (Official Lyric Video)



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赤い鳥 - 赤い花白い花 (1970.09.05) - 新居潤子(山本潤子) 平山泰代




(ちんちくりんNo,46)


「それに?・・・ん、これからどう・・・」

「え」

「予定だよ、これからの予定」

 僕がこれから話そうとしたところで、父が問いかけて来た。予定?ああ、「匂わせた」だけだったが、粗方僕が何を言いたいのか予想がついているのか。考えてみれば大学生になってから、盆も正月も殆ど帰ってきたことがなかった僕が、「合格通知」を披露するためだけに帰ってきたなんて誰も思わないだろう。母だってヒントを与えられてなくとも、心のどこかで何某かの疑念が僕に対してあるだろうし。
 僕はあらためて姿勢を正し、意を決して言う。母の落胆した表情を思い浮かべながら。

「教員にはならないよ。二次試験は受けない」

「ならないって、お前。なら他に何処か決まっているのか?」

「小説家になる。いや、なるために文章を書く仕事に就きたい」

 そう僕が述べると父は、俯き加減に首を小さく左右に振った。母は、と思い視線を隣に遣ると、不思議なものと相対しているような、そんな表情をして僕を見ていた。どう感じたのだろうか。母の表情からは何も読み取れなかった。正直、直ぐに母は乱れると思っていた。罵倒されるのも覚悟していた。でもいつまで待ってみても母の表情は変わらなかった。父は色々質問してきたが、予想していた通りの展開だったらしく、僕の「もう決めたことだから」の一言で黙ってしまった。僕はテーブルに両腕を立て、前のめりになって母に向かった。「ねえ、母さんはどう?俺は小学校の家庭訪問の時から、いや母さんが病気になってからかもしれない。その時からずっと自分は先生にならなくてはと思ってきた。だから小説家になることだって模索はしてきたけれど、どこかで諦めみたいなところがあった。でもね、それじゃいけないよね。やりたいことは自分で決めなきゃ」僕はそう一気に捲し立てたあと、しまったと思った。案の定、引っ掛かりを感じたらしく、母は空を見て「わたしが病気になってから・・・。先生にならなきゃ?自分で決めなきゃって、どういうこと?私が悪かったのか、わたしがお前のいく道を一方的に決めたのか」独り言のようにそう呟いた。「いや、そういうことじゃなく、やっと自分の本当に進む道がわかったという」僕は母に返したが、母は口を閉ざしてテーブルに置かれてあった「合格通知」に再度目を落とした。僕と父は俯いた母に声をかけたが、母は微動だにせず紙片に書かれてある文字を必死に追いかけているようだった。
 気まずい空気がしばらく流れた。沈黙に耐えられず、僕は時間を気にして、四角い柱時計を見た。あともう少しで姉貴たちが帰ってくるはずだ。ここは一旦引いておくべきか。そう思って見上げていた僕の様子に気が付いたのか、母も振り向いて顔を上げ時計を見た。「ああ、もうあんな時間、ご飯の用意をしなきゃね。海人は明日の迎え火、わたしたちと一緒にご先祖さんをお迎えしなさい」そう言って立ち上がり、またお勝手に消えた。表情は先ほどまでとは違って非常にさっぱりと明るいものになっていた。時間を置いたことで気を取り直したのだろう。ああ、かほるを連れて姉貴が、と母に説明しとかねば。僕が立ち上がり、残った父が「どうした」と声をかけてきたときに、玄関から「ただいま」と「こんばんは」が交じったまるでハーモニーを思わせるような対の美声が聴こえた。―あれれ、遅かったか。


コメント
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