THE READING JOURNAL

読書日誌と雑文

「ヴェローナ 糸杉のある光景」

2007-04-21 | Weblog
「ヨーロッパ 夢の町を歩く」 巖谷 國士 著

III ヴェローナ 糸杉のある光景

著者の夢には、ときおり糸杉のシルエットがあらわれる。

そもそもヨーロッパの国々では、糸杉は墓地に植えられることの多い樹なのだ。なによりも、糸杉は死を象徴する。そして死にたいする悲歎をも象徴する。春には花も咲くが、その花言葉は「死」「悲嘆」「不死の魂」である。
ここで気になってくるのは、糸杉に「死」だけでなく「不死」の意味もあるということで、一見矛盾しているようだが、それにはだれにでもわかる理由がある。糸杉はヒノキ科の常緑針葉樹であって、冬にも葉が落ちない。つまりその属性はむしろ「不死」なのであり、いつも生き生きとしている濃緑色が「永生」のイメージをよびおこす。ギリシア神話の美少年アドニスは植物を象徴する神格でもあるが、その死をいたむ祭儀に糸杉が用いられたことは、「永生」への願いをもあらわしていたのである。