銀河のサンマ

何でもあり

ミューイ 2かたり

2021-05-03 | イラストかたり ミューイ

 

 

 

 

 

 

 

 

この子の前に、ふわりふわり桜のおじいちゃんが降りてきた。

この子には何となく誰だかわかった。

この部屋から1.5キロほど歩いた距離にある小学校の桜の木の1つ。

この子は驚く。

何で?桜のおじいちゃんって来るの?私の家に来るの?

その出立はタキシード姿。その姿にこの子は更に驚いている。

ふぉっふぉっふぉっふぉっー。桜のお爺ちゃんは笑う。

いやいや、やっと辿り着いたよ、うっかりよその部屋に、、、ふぉっふぉっふぉっふぉっー。

なんとも不思議な桜のおじいちゃんである。

私のベランダはね、植物が多いから、もう迷わないと思うよ。とこの子は答える。

お酒をくださらんかな?

お酒!?木なのに!?

ふぉっふぉっふぉっふぉっー、冗談冗談、御茶を一煎のみたいのだが…

桜のおじいちゃんはニッコリこの子にうかがう。

うん!うん!この子は喜ぶ。

御茶を淹れるのが好きなの。御客さんに淹れてみたかったから嬉しい、とこの子は喜ぶ。

この子は急須に茶葉をいれ、水注と湯を加減しながら用意した湯呑みに

少し低温で甘めにだした御茶をそそぐ。

ふふ、どうかな? この子は恥ずかしそうに歯にかみながら続けて質問をした。

小学校には子供たちがたくさんいて、無邪気な子はたくさん居るでしょ、なのに、どうして私に声をかけたの?

桜のおじいちゃんは二口御茶をのむと、ふぅーと息をつきニッとした。

君がワシの前を通った時、変わった子がいるもんだなぁ、と興味を持ったんじゃ。

そんなのわかるのー? この子はスットンキョな声をあげた。

ワシの香りに気づくかなぁ、と思ってな、と言いかけて、この子は、あっ!と叫んだ。

あ!冬だよねっ!寒い日に2回通ったうちの一度は寒波の日っ!

ふぉっふぉっふぉっふぉっー。桜のおじいちゃんは笑う。

横切るとき桜の葉もついてないのに、桜餅の香りがするー!て辺りを嗅いでも、この木から香ってるっ!て立ち止まったもん!

ふぉっふぉっふぉっふぉっー、ほら変わった子じゃないか、気付いた者は居ないんだよ。

そうなのぉ? この子は首を傾げる。

美味しいなぁ、良ければ二煎目もいただきたい。

うん!うん!この子は嬉しそうに二煎目を注ぎ、桜のおじいちゃんの前にさしだす。

おじいちゃんには、おばあちゃんは居ないの?

ふふ、おばあさんは、もう居ないんだよ。

気まずいこと聞いちゃったかな、とこの子は俯いた。

ふぉっふぉっふぉっふぉっー。君は変わってる子だなぁ、本当に。

桜のおじいちゃんは、ほんわり笑った。

もしでいい、もしももし、忙しくない時でいいの、気分が向いた時でいいの、御茶をのみに来てって言ったら来てくれる?

ふぉっふぉっふぉっふぉっー、桜のおじいちゃんは大きくうなづき、ふんわり空から帰っていっ

た。

数日後、この子は小学校の桜の木の近くを歩いて遠くから桜の木に手を振る。

あれがね、桜のおじいちゃんなの。タキシード姿で御茶をのみに来たの。

この子は横にいる友達に興奮して話す。

そうなんだぁ、友達は小学校に並ぶ桜の木をみながら言う。

並んでいる桜の木の中で1番立派だねぇ。

そうなの。それでね、それでね…この子の話は続く。

横にいる友達は、この子を変だと思うことなく信じてきいている。

この子のこれ類話は嘘とは思ったことがない。ただその世界がどんなものかも想像できもしない。

ただ何となく、この子は言うことに信憑性あり。と判断してきいている。

だがこの子は、現実と半夢を行き来する事が上手且つ妄想者である。

たまに妄想のシナリオを簡易に創りあげるのもボク役目。

ボクの名前はミューイ。

この子の中にある海にすんでいる。大きな記憶の海。

冷たいオホーツクのような水。

暖かい黒潮にのれるような水。

うねり、よじり、なだらかな水。

あの水、この水を回遊し、エサに向かってひょうひょうと泳ぐんだ。

ボクの泳ぐ海はこの子の中。

この子が最近疲れているようなので記憶の海に塵のようなものが漂っている。

ボクがそれをエサとしよう。

キミが妄想者でホッとしている。

ボクは簡易な妄想シナリオを咥え、海の中でばら撒くとキミはボクの物語を吸収し豊かな記憶を生みだし、妄想を現実に繋げ新たな体験と新しい記憶として残しキミは笑う。

豊かな記憶とちょっぴり妄想主義な普段のキミに戻って海が少し澄むだろうか。

この子が歩きながら横の子に話す。

この桜のおじいちゃんはね、70過ぎくらいなの。

ボクの描いたストーリーにはない。

だけど、その桜に木の樹齢は確かに70と少しなのだ。

ボクは簡易にしか物語をつくれない。

この中の体験の殆どは、この子が現実に生みだしていく。

ボクの物語をこの子が現実につなげることは、ボクがこの子の中で生き続けているということ。

ボクはミューイ。

ボクはメスだ。キジ猫ではない。

ボクの泳ぐ海はこの子の中。

冷たいオホーツクの水。

暖かい黒潮にのれるような水。

うねり、よじり、なだらかな水。

あの水、この水を回遊し、エサに向かってひょうひょうと今日も泳ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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