朝、マグカップに水を注ぎ、飲む。
2/3飲んだところで一息、と僕に左手からマグカップがスルリと抜け落ちる。
しまったっ! 咄嗟にでた右手、マグカップを宙で救えず。
床に落ちる。
ガラガラン。割れなかった。
当然、残り1/3の水が床に零れる。
転がったマグカップと零れた水をみる。
拭かなきゃいけないと分かっているが、みる。
思考が止まる様に物思いにふけりだす。
「天地始粛になったわ、秋近しも営業中」
おぉっっっ!びっくりしたぁっ! 僕は大きく声を張りあげた。
マグカップと零れた水の視線に突然、小料理屋風「銀河食堂」現る。
まるでビックリハウス。
改めまして、戸をガラリ。
あら、久しぶり。忽ち秋気分?
え?あ・・・ボーっとしてしまったのです。と僕は恥ずかしく頭を掻いた。
朝、未だでしょ。親子丼試食していかない?
でた、女将の初めてシリーズ。僕は試食係?
ふふ、毒味係よ、サラリと言う笑顔の女将。
尚、タチが悪いね(笑) でも嫌いじゃないよ、女将の冗談。
僕は小さく舌をだした。
いただきます、スプーンを手にとり軽く頭をさげた。
見た目、茶色のごった煮。
親子丼を一さじ口に入れる。
うぅっ、美味い!!
ふはっ、そう?女将が満面の笑みをし、言う。
濃い口醤油しか無くて、茶色い親子丼になっちゃったのよ、ふふふ。
女将は照れ笑いをした。
見た目と違い、味つけ濃くなく玉葱のクッタリ感、玉子のふわり、僕は好きだ。
僕はスプーンをすすめながら不思議に思い、女将に尋ねた。
ねぇ、試食のレシピは何を参考にしているの?
ふふふ、思い出。
思い出?
あ、思い出より味の決め手はね・・・
何何?僕の耳がダンボになる。
美味しくなっておくれ、と囁いて思うと味が変わるのっ、ふふふふっ。
本当?
本気よ、ふふふふっ。
分かるようでわからない様な。。。
わかるようで、わかるようになるわ。女将がウインクする。
だからね、すぅと女将が深呼吸し静かに言う。
天地始粛だけど耽るに早いわ。
・・・はい・・。
水を溢さないように注いで。
ん?
みあげると手に一杯の水を持つ女将が僕に勢いよく、かけようとする。
うわぁぁぁぁあっ。
僕は咄嗟にスプーンと一緒に手で顔、頭を覆い身を縮める。
うぅぅぅぅぅぅ・・・もぅ。。。
3分くらいは経ったろうか、恐る恐る目をあけ顔をあげた。
あれ?濡れてない。
ここ何処だろう。
目の前には大きな瓶が倒れている。
その瓶から溢れるようにピンクの花が咲きこぼれる。
スプーンを持っていた手は朝、落としたはずのマグカップ。
溢したはずの水も入っている。
長く咲きますように。
僕はそっと囁き、マグカップの水を花一面に注いだ。
※ 2020.08.27朝食の一部