ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

サウンドハウスのミニギター

2009-10-23 20:55:00 | ギター
 音程感の薄い楽器ばかりでは万が一のとき対応できないと思い、サウンドハウスの5,980円ミニギター(PLAYTECH ST025)を購入、調整のうえ持参し、舞台でもちゃんとAC15に繋いでいた俺である。真面目なこと。以前から欲しかったんだけどね。
 けっきょく本番では余り使わなかったが、まあ、買物としては良かった。
「なんで黄色を買ったんですか」と奥野から云われた。素敵だと思ったからですが駄目?
 小さなボディに通常サイズのパーツを無理やり配しているので、ちょっと不細工な顔付きである。
 メイカーの推奨どおり四度上に調絃している。絃のゲージは張ってあった奴が.09からのセットで(やや錆びておった)、一度.10に替えてみて、二音チョーキング等の都合上、やっぱり.09に戻した。超高音が簡単に出せるのが楽しい。
 個体差が激しそうなブランドだが、取り敢えず自分の楽器への所感を――。

・ネックは標準的な蒲鉾型で、状態良好。トラスロッドを利かせない状態でも真っ直ぐ。塗装はサテン風。
・丈夫なネックのお蔭か、サスティンは意外と長い。音楽的。この点は実に愕いた。
・フレットの表面がざらついていた。弾いているうちに削れて綺麗になってきたが、当初はヴィブラートの度にしゃかしゃかと五月蝿かった。
・ナットは通常のギターのサイズ。如何にも中国製風の真っ白な樹脂で、削った屑が付着していたりもしたが、溝切りは適正。
・ナットとペグとの間に、木部が絃に触れる箇所あり。木部のでっぱりを紙鑢で削る。所要時間二分。
・ブリッヂも通常サイズ。ノントレモロのストラト型。駒を留めるネジのはみ出しが、絃に当たる部分があったので、金属用の鋏でネジを切断して短くする。
・駒の芋ネジが、演奏の振動で弛みやすい。適度に錆びるのを待てなかったら、駒ごと交換するかも。
・チューニング・ペグは'60年代風だが、ちゃんとトルク調整できる。しかしポスト高が一定なので、鴎型のストリング・リテイナー(絃押さえ)が第一~第四絃までを支配している。チューニングの狂いを生じさせ易い箇所だから、リテイナー要らずのタイプに交換したいところ。するとペグ代で本体価格を上回ってしまうけれど。
・ピックアップは意外と高性能。凄まじい高域が出るので、これはこれで大切にすべきかと。
・舞台上、ボリュームをゼロにしていても、アンプが結構なホワイトノイズを発して、スタンバイ・スウィッチを大活躍させねばならなかった。配線はまだ覗いていないが、相当にラフな状態が予想される。
・僕はアンプの前段で物凄くブーストする為、舞台上でハウリングを起こしかけたが、これはフェンダーのテレキャスター等にもよくある現象で、ピックアップがどうのといった話ではなかろう。通常使用では問題ないと思う。

 と、賛辞を並べる心算が何故か辛めになってしまったが、フェンダーだってずたずたに改造してしまう人間の弁なので、「買っても改造が必要なのか」と落胆なさるには及ばない。玩具のような価格とは裏腹に「ちゃんと楽器」であり、半音や一音のチョーキングでは音が狂ったりもしない。
 いちばん残念だったのは、僕の粘っこく、フレットが有ってもやっぱり音程感の薄い弾き方の所為で、録音上はテルミンと余り区別がつかなかった点。

A2.1uとPH-3

2009-10-22 18:20:00 | 他の機材
 グリセンター用のエフェクトは、Zoom A2.1uという安価な生ギター用マルチの、リヴァース・ディレイのみ。ポイントポイントで演奏を逆回転させるのだ。使い慣れるとこれが面白く、バンドにも評判が良い。
 ラヂデパの太朗も参加しているアコースティック・グループ“ポーボーイ・バッグ”の為に買ったA2.1u(なんて非道いネーミング)だが、鳴らない楽器を無理やり盛り上げる機能満載という感じで、骨太なアンサンブルのなか有用ではなかった。またこの種の多機能物は、毎度、使い方を忘れてしまうのが厄介。
 曲毎の音色をプリセットできる「マルチ」エフェクターで単機能しか使わない、というのは如何にも無駄な感じがするが、オートワウやフェイザー機能も捨てがたく、リハーサルで「ちょいと試しに」が可能なので、当面は一体型のこれが便利かなあ、という感じ。

 マトリョミン(テルミン)も使ったよ。梅村君から「人形に念を送っているようにしか見えなかった」と云われる一方、打上げで他バンドの皆さんに遊んでもらったら、みな演奏の難しさに驚いておられた。そう、けっこう難しいんですよ。
 奥野から「飛道具をいっぱい繋いでください」と云われていたのだが、実験の結果、ディストーション類は無意味。ラジオを受信できる程度(実話)。モジュレーション系もオンなのかオフなのか微妙な感じだったが、ボスのフェイズ・シフター(フェイザー)PH-3の、STEP(フィルターの種類がランダムに変わる)モードだけは劇的で、DEPTH(フィルターの変化幅)とRES(レゾナンス/掛かりの深さ)を最大にすると、まるで小さな楽団。筐体の、講談社文庫のロゴみたいな緑色は嫌いだが、このモードの為だけにでも一万円の価値はあった。
 RATE(スピード)を楽器の一部として操作すると、より面白い。これは本体の踏み方でも変えられるが、外部ペダル(EV-5)の方が効果的だろう。次回迄に修業しておきます。

 マトリョミンにはボリュームペダルも使用。右手は、実は楽器を支えているだけではなく、アンテナの感度をリアルタイムに調整しているので、他に音量を操作する術が無かった。持っていた筈のボスのペダルが行方不明につき、仕方なくERNIE BALLのVP JR.を新規購入した。これは良いね。比較的コンパクトで軽く、撥条(ほんとに単純なスプリングで吃驚)で踏み代を緩衝してあるので、踏み過ぎ事故が少ない。

 この話題、更に続く。

CAPTAIN ROCKETを振り返る

2009-10-21 11:39:00 | 他の機材
 CAPTAIN ROCKETの資料録音を怖々と聴いてみたら、バンドも自分も異様に上手くて――そう錯覚できて――驚いた。
 中近東っぽく、といったリクエストに素直に応じていたに過ぎないが、さすがフレットレス楽器のグリセンター(と商品名で呼び続けるのは気持ちが悪いものの、エレクトリックウード等と称すれば、それはまた別に存在するのでややこしい。CAPTAIN ROCKETでは単にウードと呼ばれている。音色は殆ど同じだからね)はフレーズ毎の緊張感が凄まじく、ギターで演ると阿呆みたいな技にも説得力がある。なにより音色が美しい。ひょっとするとこれ、僕に不可欠な楽器の三指に食い込むかもしれない。

 コントラバスは何人もの先生に付いて学んだし、フレットレスベースを弾きながら歌っていた時期もあるので、音程を外すのではという恐怖は薄い。ウードにも共通する大きな課題は、人間にとって耳につき易いうえ音程ポイントの間隔が狭くなる高音部で、ここを外すと大変に気持ちが悪い。逆にそれをクリアできればすぐさま達人のように聞える。

 もう一つの壁は和音。
 フレットの手助けが無い為、どうやっても指を適切に配置できないコードフォームが多々ある。まあ世の中のあらゆる和音を弾ける必要はないのだし、好都合な省略形を考案していくしかない。他にベースが居るアンサンブルだったらルートや五度を省略し、三度と七度だけ弾いたほうが爽快だったりする。別の楽器や歌がメロディをとるならルートと五度で事足りる場合もある。
 ウード類はその響きが美しいという理由もあり、開放絃は多用する。和音にもだが、メロディ弾きの間も、例えばその時のコードがAmなら、でーんと開放のA音を鳴らしてからフレーズに入ったほうが、結果が良い。

 余談。理論を突き詰めていけば、「あるていど速く弾いている間なら“絶対に弾いてはならない音”は存在しない」という理由から、僕はギターでもよく危ない開放絃を鳴らしたり、上の方を右手で鳴らしたり(要するにタッピング)する。本当は感覚的に演っているに過ぎないので、「単に間違って」聞えてしまうケースも無いではない。すまん、よくある。そういう時は二、三回同じ事を繰り返して「意図的です」と示す他ない――それが事実であれ芝居であれ。

 CAPTAIN ROCKETと奇妙な楽器の話は続く。

2009-10-21 06:07:00 | マルジナリア
 悲しい、余りにも悲しい夢の直後に目覚める。
 僕は少年で、一泊の遠足に出掛けようとしている。食事は買って済ませる心算でいたが、近くに都合よく店があったものか、玄関で急に不安にかられる。「だからこれ」と母が大きな大きな稲荷寿司を持ち出してくる。母は不思議に上機嫌で、おどけた拍子に寿司が床へと転がる。
「食べらりゃせんわ」と僕は母を叱る。母は「ごめん」と殊勝に謝る。僕は意地を張ったまま稲荷寿司を拾い上げ、指で埃を払おうとするがうまく行かなくて、台所に行って水で洗い流そうとする。たちまち中身が崩れ、こぼれ出て、流れ落ちて、寿司はびしゃびしゃの小さな塊になり果てる。
 僕は本当は怒っていない。貴方に怒った事は一度もない。

サングラス

2009-10-15 10:21:00 | マルジナリア
 主催しているバンド“ラヂオデパート”の広報に始めたこのブログだが、不思議とと云うか矢張りと云うか、出版業界の裏話めいた事を書いた翌日のアクセスの方が圧倒的に多い。書くことが仕事の人間が、仕事の事を書いている訳で、此方としては面白くもなんともないのだが、文体実験には便利なので自由連想式に書いている。この文体というのは書き手と文章の距離感の事で、表面上の話ではない。

「サングラスのままでいいですか」と写真スタジオで訊いた。
 後に阿呆みたいなポストモダン・ホテルの硝子だけで出来た壁面にぶつかって壊してしまう、レイヴァンの度入りサングラスを僕は掛けていた。いつかこのブログに書いた、自動ドアに破壊された眼鏡とは別物だ。
 僕は大変に眼が悪い。生まれた瞬間から悪い。眼球が奥深いのだそうで、網膜に焦点を結ばない。赤ん坊のとき医師が母に「この子は視えなくなる」から覚悟して育てるようにと云ったとか。眼が悪いから失明するというのは短絡のようだが、疾患は疾患を呼ぶらしく、同様な眼球の持ち主だった父は、なんだかんだで片眼が完全に視えなかった。書道をやっているというのに残っている眼もろくに視えなくて、晩年は専ら篆刻(てんこく)に熱中していた。石印に鉄筆で字を彫る、謂わば極小の書道。
 僕が大した才能も無い癖に音楽に拘泥するのは、そういう父の姿を見て育ったからだろう。

 子供の頃の栄養不足で発育が不全だった戦中派と、自分が同じ道を辿るとは思っていないが、最近は老眼も進行しており何を見るにも難儀している。印象が悪いからと、以前は人前では普通の眼鏡と心掛けていた。今は無理をせず、ライヴでも待合せでもサングラスで失礼している。
 焦点が眼球の半ばにあり、網膜までにまた光が拡散してしまうからだろう、書店程度の照明でも眩しくて堪らない。だから書店には余り入らない。入っても、必要な物だけを買って逃げるように出ていく。

 さてと、CAPTAIN ROCKET(これが正しい表記らしい)のライヴが迫ってきた。渋谷屋根裏、10/18(日)の夜の部です。昼の部には出ませんので、お気を付けあれ。20時20分より四十分程度のステージとなる模様。
http://shibuya-yaneura.com/

 編成はドラム×3、リードベースと普通のベース、及び津原(グリセンターとテルミン)。前衛ぶったノイズユニット等ではないので、怖がらず御来場ください。Blue Man Groupの音楽性に近いかもしれない。顔色は普通です。