ギャンブル狂、野球狂、骨董狂い、古本狂い、女狂いに男狂い、女殺に油の地獄、世の中色々あるけれど、僕は間違いなく楽器狂いだ。
幼児期に親戚を点々として、自分の物を持てずにいた。凡てが借り物だった。当時はまったく平気だったけど、大人になるや時限爆弾のように反動が来た。イメージしているその楽器に、触れられない日々に耐えられない。また子供の頃のように、弾いている自分をただ想像して過ごすのかと思うと、悔しくて眠れなくなる。で、無理をしてでも入手する。
一点、ここだけは誇りでも恥でもあるのだが、僕が欲しいのはあくまで道具なので、それ以上の性質の物は買わない。如何にぼろぼろな状態でも気にしない。練習で更に瑕だらけにし、ライヴでも路上でもがんがん使う。蒐集家の目に、僕の楽器は全部がらくたである。本当に。
ヌートリアスの音源にナイロン絃ギターの響きが欲しくなり、日々その事しか考えられなくなった。これは拙い。仕事にも健康にも差し支える。
で、ウェブで見てぴんと来た中古楽器を、触りもせずに買ってしまった。とんだ賭だったが、ろくに外出できないほど多忙な時期だったし、Schecterというそのブランドの、知られていないアコースティック系の楽器が、意外にも秀逸だというのは知っていた。
商品を確認できないインターネットを通じての買物には、未だ基本的にアレルギーがあるが、そんな小さな意地を張って生きられる時代でもない。
KS-KANSASという謎の名前を冠された、テレキャスター型のナイロン絃ギター。テレキャスターにナイロン絃というのはゴダンが最初だったと思うが、そのデザインが余りに上出来だったためスタンダード化している。
アンプやラインでの出力を前提にした、所謂エレガットである。ブラウザでは真っ黒の潰しに見えたが、届いてみると木目の透ける洒落た塗装だった。中空なので恐ろしく軽い。生での音量も意外とある。
ウェブを探っても、当該モデルの資料は殆ど出てこなかった。元値が十万円台の半ばと判った程度。いつ頃の製品かも判らない。きっと生産台数は百本以下だろう。同ブランドの他楽器からの類推。
反っていたネックを修正すると、なかなかの弾き心地である。ネックがエレキ幅なので、一面、余りに楽で拍子抜けした。
小さなアンプで弾いている間は、低音の薄さ、ピエゾマイク独特の指と絃との摩擦音などが気になったが、のちにスタジオで大きなアンプに繋いだら、低音は出過ぎる程、摩擦音はアンサンブル中では聞き取れなかった。良く出来た楽器だ。
絃の工夫も功を奏したように思う。いま張っているのはSAVAREZ(サヴァレス)のコラム・アリアンス。品番は500ARJ。高音絃がアリアンスで、低音絃がコラムで――という事らしいが、この絃セットは傑作ではなかろうか。質の良いウクレレは、ころころと土鈴のような音がし、アンサンブルに入るとハープかエレクトリックピアノのように響くものだが、その音程だけを下げたような軽やかな音がする。
低音がハードテンションのセットにしているのは、絃高を下げつつもびびりを避けたいからで、トラスロッドが入っているからネックに悪影響は無かろうの判断。
ここからが寧ろ本項の本題だったりするのだが、こういった、ちょっと変わった絃を見つけるのに、我々は実に苦労するのである。
500ARJはまだしもサウンドハウスの通販で買えたが、以前書いたゴダンの十一絃フレットレスギター、グリセンターの専用絃など、代理店にも無かった。余所の絃だとまるでゲージが合わず、代用にならない。楽器を売っておいて、切れたら弾くなとでも? 非道いもんだ。
バリトンギターの絃も、最近ようやく見掛けるようになったけれど、嘗ては絶望的だった。コーティング絃のElixerもバリトン絃を出していると知ったが、未だ店頭では見たことがない。ウェブでも在庫切ればかり。
Veillette-Citronという今は亡き米国工房の、Guild Thunderbirdを模したバリトンギターを持っている。たぶんまだ二十代の頃、生まれて初めて見たこのバリトンギターを、衝動買いした。正しい調絃さえ分からなかったが、張られている絃から類推してAからのギター調絃にしてきた。
そもそも僕は低音好きだから、次のライヴはこの一本で、と命じられても困らない自信がある。しかし合う交換絃が見つからず、買ったとき張られていたものを磨いては使ってきたのだ。
工房は、1983年までの存在だったらしい。片割れだったJoe Veillette(どう発音するんだ。ヴェイレット?)は、今も物凄く良質なベースやバリトンギターを造っている。物凄く高いけど。
http://www.veilletteguitars.com/
http://www.sleekelite.com/
グリセンター専用絃、エリクサーのバリトン絃は、結局下のサイトでまとめ買いした。
http://www.stringsandbeyond.com/
海外でも五日から十日で届くとあるけれど、実際には二週間くらいかかった。送料は十セット以内なら$14.95。以後十セット毎に$5増し。まあ安くはない。しかし特殊な消耗品に困ってきた者に、インターネット上のこういう商売は有り難い。
インターネットでこんなに助かってます、ってな項になっちゃったな。
幼児期に親戚を点々として、自分の物を持てずにいた。凡てが借り物だった。当時はまったく平気だったけど、大人になるや時限爆弾のように反動が来た。イメージしているその楽器に、触れられない日々に耐えられない。また子供の頃のように、弾いている自分をただ想像して過ごすのかと思うと、悔しくて眠れなくなる。で、無理をしてでも入手する。
一点、ここだけは誇りでも恥でもあるのだが、僕が欲しいのはあくまで道具なので、それ以上の性質の物は買わない。如何にぼろぼろな状態でも気にしない。練習で更に瑕だらけにし、ライヴでも路上でもがんがん使う。蒐集家の目に、僕の楽器は全部がらくたである。本当に。
ヌートリアスの音源にナイロン絃ギターの響きが欲しくなり、日々その事しか考えられなくなった。これは拙い。仕事にも健康にも差し支える。
で、ウェブで見てぴんと来た中古楽器を、触りもせずに買ってしまった。とんだ賭だったが、ろくに外出できないほど多忙な時期だったし、Schecterというそのブランドの、知られていないアコースティック系の楽器が、意外にも秀逸だというのは知っていた。
商品を確認できないインターネットを通じての買物には、未だ基本的にアレルギーがあるが、そんな小さな意地を張って生きられる時代でもない。
KS-KANSASという謎の名前を冠された、テレキャスター型のナイロン絃ギター。テレキャスターにナイロン絃というのはゴダンが最初だったと思うが、そのデザインが余りに上出来だったためスタンダード化している。
アンプやラインでの出力を前提にした、所謂エレガットである。ブラウザでは真っ黒の潰しに見えたが、届いてみると木目の透ける洒落た塗装だった。中空なので恐ろしく軽い。生での音量も意外とある。
ウェブを探っても、当該モデルの資料は殆ど出てこなかった。元値が十万円台の半ばと判った程度。いつ頃の製品かも判らない。きっと生産台数は百本以下だろう。同ブランドの他楽器からの類推。
反っていたネックを修正すると、なかなかの弾き心地である。ネックがエレキ幅なので、一面、余りに楽で拍子抜けした。
小さなアンプで弾いている間は、低音の薄さ、ピエゾマイク独特の指と絃との摩擦音などが気になったが、のちにスタジオで大きなアンプに繋いだら、低音は出過ぎる程、摩擦音はアンサンブル中では聞き取れなかった。良く出来た楽器だ。
絃の工夫も功を奏したように思う。いま張っているのはSAVAREZ(サヴァレス)のコラム・アリアンス。品番は500ARJ。高音絃がアリアンスで、低音絃がコラムで――という事らしいが、この絃セットは傑作ではなかろうか。質の良いウクレレは、ころころと土鈴のような音がし、アンサンブルに入るとハープかエレクトリックピアノのように響くものだが、その音程だけを下げたような軽やかな音がする。
低音がハードテンションのセットにしているのは、絃高を下げつつもびびりを避けたいからで、トラスロッドが入っているからネックに悪影響は無かろうの判断。
ここからが寧ろ本項の本題だったりするのだが、こういった、ちょっと変わった絃を見つけるのに、我々は実に苦労するのである。
500ARJはまだしもサウンドハウスの通販で買えたが、以前書いたゴダンの十一絃フレットレスギター、グリセンターの専用絃など、代理店にも無かった。余所の絃だとまるでゲージが合わず、代用にならない。楽器を売っておいて、切れたら弾くなとでも? 非道いもんだ。
バリトンギターの絃も、最近ようやく見掛けるようになったけれど、嘗ては絶望的だった。コーティング絃のElixerもバリトン絃を出していると知ったが、未だ店頭では見たことがない。ウェブでも在庫切ればかり。
Veillette-Citronという今は亡き米国工房の、Guild Thunderbirdを模したバリトンギターを持っている。たぶんまだ二十代の頃、生まれて初めて見たこのバリトンギターを、衝動買いした。正しい調絃さえ分からなかったが、張られている絃から類推してAからのギター調絃にしてきた。
そもそも僕は低音好きだから、次のライヴはこの一本で、と命じられても困らない自信がある。しかし合う交換絃が見つからず、買ったとき張られていたものを磨いては使ってきたのだ。
工房は、1983年までの存在だったらしい。片割れだったJoe Veillette(どう発音するんだ。ヴェイレット?)は、今も物凄く良質なベースやバリトンギターを造っている。物凄く高いけど。
http://www.veilletteguitars.com/
http://www.sleekelite.com/
グリセンター専用絃、エリクサーのバリトン絃は、結局下のサイトでまとめ買いした。
http://www.stringsandbeyond.com/
海外でも五日から十日で届くとあるけれど、実際には二週間くらいかかった。送料は十セット以内なら$14.95。以後十セット毎に$5増し。まあ安くはない。しかし特殊な消耗品に困ってきた者に、インターネット上のこういう商売は有り難い。
インターネットでこんなに助かってます、ってな項になっちゃったな。