我ながら粗忽と感じるのは、前述の書評家氏に「それは誰から聞いた噂ですか」と問わなかった点。占星術に詳しい永嶋恵美さんから「乙女座はそうなんですよ」とでも云われそうだが、自分の内と外とを厳然と区別していて、「外ではそういう事も起きるのだ」と納得してしまう傾向が僕には強い。永嶋さんも乙女座だ。
やはり乙女座の中井英夫に、助手だった本多正一君が「この家にはもうお金が無いんですよ」と云ったら、「お前の所為で俺の世界から金が無くなった」と怒られたんだそうだ。他人事ではない。
星座云々は兎も角、人を大雑把に、世評によって形成されるイメージを重視する人、自ら形成してきたセルフイメージに拘泥する人に分けるとしたら、僕は極度の後者であろう。人の噂の、威力の凄まじさに驚かされた経験には事欠かないが、所詮「外の世界の話」なので、それが自分を嘲笑する話題であっても、どこか可笑しい。僕の伯父にもそういうところがあって、この人に至っては勘当の原因となった誤解を、親が死んでさえ解こうとしなかった。「外の話」なんである。
集英社のT君から「津原さんは人の作品をよく誉めますね」と驚かれた事がある。実話です。感心した作品は辛うじて記憶していて、そうでもなかった作品は憶えていないというだけの話なんだが、慥かに(恐らくは意外と)僕は毒舌家ではない。自分の読者を想うのに精一杯で、シーン(scene/状況)を杞憂する余裕を持たない。誉めてばかりいるのではなくて、逆が欠落しているのだと思う。
他の作家はそんなにも他人の作品を気にし、貶しもするのかと驚き、そう訊いたのだが――どうあれ、僕にそんな活力は無い。
かく云うT君も直截な批判精神を欠く人で、仕事柄、今一つな原稿は山ほど読んでいるだろうに、いつも宙をふわふわと漂っているような話しかしない。パーティ後、まるで男女がデートするように一緒に露西亜料理を食い、バーで酒を飲んだのだが、話題は専らジャン・ジャック・ルソーだった。あと空母のプラモデルを作っていると云ってたな。六千人を収容する水上都市であるところの最新空母に、自分もなんらか関わりたいと思い、プラモデルを買ったのだとか。シナプスの三段跳びが素晴しい。
やはり乙女座の中井英夫に、助手だった本多正一君が「この家にはもうお金が無いんですよ」と云ったら、「お前の所為で俺の世界から金が無くなった」と怒られたんだそうだ。他人事ではない。
星座云々は兎も角、人を大雑把に、世評によって形成されるイメージを重視する人、自ら形成してきたセルフイメージに拘泥する人に分けるとしたら、僕は極度の後者であろう。人の噂の、威力の凄まじさに驚かされた経験には事欠かないが、所詮「外の世界の話」なので、それが自分を嘲笑する話題であっても、どこか可笑しい。僕の伯父にもそういうところがあって、この人に至っては勘当の原因となった誤解を、親が死んでさえ解こうとしなかった。「外の話」なんである。
集英社のT君から「津原さんは人の作品をよく誉めますね」と驚かれた事がある。実話です。感心した作品は辛うじて記憶していて、そうでもなかった作品は憶えていないというだけの話なんだが、慥かに(恐らくは意外と)僕は毒舌家ではない。自分の読者を想うのに精一杯で、シーン(scene/状況)を杞憂する余裕を持たない。誉めてばかりいるのではなくて、逆が欠落しているのだと思う。
他の作家はそんなにも他人の作品を気にし、貶しもするのかと驚き、そう訊いたのだが――どうあれ、僕にそんな活力は無い。
かく云うT君も直截な批判精神を欠く人で、仕事柄、今一つな原稿は山ほど読んでいるだろうに、いつも宙をふわふわと漂っているような話しかしない。パーティ後、まるで男女がデートするように一緒に露西亜料理を食い、バーで酒を飲んだのだが、話題は専らジャン・ジャック・ルソーだった。あと空母のプラモデルを作っていると云ってたな。六千人を収容する水上都市であるところの最新空母に、自分もなんらか関わりたいと思い、プラモデルを買ったのだとか。シナプスの三段跳びが素晴しい。