ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

マトリョミン雑感

2009-09-27 12:07:00 | 他の機材
 マトリョミンの話の続き。購入をお考えで、検索して来られた方もおいでだろうから、一ユーザーとしての所感など。

 マトリョーシカは、絵付け職人が「自分をモデルに」なさるそうで、僕のは清楚な美人が描いてくださったと思しい。いや欲目ではなく。
 そういった外面とは裏腹に優秀な楽器だが、コンパクトなぶん音程に関してはシビアだ。しかも音量アンテナが無く永久ポルタメントを強いられるから、けっこう高度な演奏力が要求される。一箇所押さえれば(本当はまったく押さえなくても)和音になるウクレレなんかとは、最初のハードルの高さが違う。

 以下、苦言めいた文言もあるが、楽器自体は本当に良く出来ている。
 エキセントリックな楽器だし安い代物ではないので、教則ディスクくらいは付いているものと期待していたが、取扱い上の注意など示した簡単なリーフレットのみ。演奏マニュアルは無い。
 代わり、販売元のサイトに、ウェブ・レッスンだとか伴奏音源だとかが有料で用意されている。各地カルチャーセンターではマトリョミン教室も盛んなようで、この辺、お教室ビジネスの香気に噎せなくもない。

 自然発生というか猿の芋洗いだったウクレレの盛上りに於いては、謂わば全員がブームに便乗していた。お蔭で短期のうちに感涙ものの再普及が実現して、消耗品にも譜面にも困らなくなった。今やアマチュア層は厚く、市井にも達人が溢れている。ハワイ音楽を軽視する者など一人もいない(と敢えて書いてみる)。
 他方、相変わらず風前の灯火なのが大正琴。家元制じみたフルサポート・システムが、楽器そのものや習得経費の高額化を促し、規格統一や改良は阻害して、世界に誇るべき、この国産楽器を締め殺しつつあるように思う。山崎バニラだけが救いだ。女神だ。
 とか書いていて山崎氏の顔を見たくなり、Googleで画像検索したらすぐさま川上未映子が出てきた。鬘つながりか。

 通常テルミン類には不可欠とされる伴奏音源が、さしたるライブラリも成していないのに有料というのには、正直、かちんと来た。僕のように先にバンドありきでテルミンな人は珍しいから、楽器を買ってしまったら、自動的に伴奏にもお金を払わざるを得ないシステムだ。
 完璧にとは行かないだろうが、下記のフリーウェアで、既存のCDからカラオケを自作できる。テルミンは音域が広いからキイの問題は生じないだろう。残念ながらMacには対応していない。
http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se399616.html
http://www.vector.co.jp/soft/win31/art/se381789.html

 理屈のうえでは、ボリュームペダルを挟んでギターアンプ等に繋げば、マトリョミンでも音量可変となる。しかしエレキギタリスト並みにペダル慣れしていないと、姿勢が不安定になるのので難しいと思う。僕はまだ試した事がない。というのもマトリョミンの外部アウトプットは、ステレオ・ミニ・プラグ用のヘッドフォン端子(内蔵スピーカー・オン/オフの二種類)のみなのだ。
 パソコンやiPod用のパワード(電源を要する)スピーカーはそのまま繋がるが、楽器用アンプの接続プラグは通常、モノラルのフォン型(標準プラグ)である。
 ステレオ・ミニとモノラル・フォンが両端になったケーブルとして、販売元サイトでHOSAのCMPシリーズが推奨されている。サウンドハウスで買えるが、他ではまず見つからない代物。しかもこの情報は、サイト内BBSの一トピックであり、僕はGoogleから辿り着いた。これはどうでしょうと感じた、第二の点だ。

 マトリョミンの音はけっこうでかいので、音量面で外部アンプを必要とする人は少ない思う。外部出力を要するのは、空間系エフェクターを使ったり、伴奏とミックスしてモニターしたい場合が多いのでは。
 にも拘わらず外部アンプとしてダン・エレクトロの現行HONEYTONEが推奨されている点も――価格やサイズに鑑みての妥協案なんだろうが――やや解せない。プラスティックの軽い筐体は共振し易いし、あのサイズのアンプを歪ませまいとすればマトリョミン側の出力を下げざるを得ず、大して音量は変わらないか、むしろ小さくなるのでは。
 かといってサブスピーカーと位置付け、マトリョミン側の音をカットせずに使えば、フェイズアウトを誘発して、位置関係によっては寧ろ聞えづらい。
 一万円を出てしまうしサイズもだいぶ大きくなるが、マトリョミンの為に買うんだったら、ローランドのCUBEシリーズ(CUBE StreetやCUBE-15)だと思うけどな。エフェクター内蔵のうえ、AUX端子に伴奏音源を繋ぐこともできる。

十月のライヴ

2009-09-27 08:40:00 | ライヴ
 寸前でばたばた乍ら、ラヂオデパートのライヴ情報を。
 結構なあいだ広島に居たり長篇と格闘したりだったので、とりわけラヂデパとしては久々のライヴ。と云うか人前が久し振りだよ俺。

★10/1(木) 渋谷“青い部屋”
 03-3407-3564
http://www.aoiheya.com/
 日時:2009年10月1日(木)
 19:30start 23:00close
 前売:2,000円 当日:2,300円
※ラヂオデパートの出演は21時、トリを務めます。

 ほんまに寸前で申し訳ない。しかも出演者数少なく、がら空きの状態が懸念されとります。そのぶん家族的な雰囲気のなか、たっぷりと演奏致しますので、ひとつお運びください。来てくれたら、うちに余ってる近刊とかあげちゃう。本当に。でも袋の中身は選べません。あと奇蹟的に応募者多数の場合、銀のエンゼルに変わります。御了承を。

★10/29(木) 渋谷“屋根裏”
 03-3477-6969
http://shibuya-yaneura.com/
 日時:2009年5月19日(火)
 前売券:2,000円  当日券: 2,300円
 出演:春田直樹/ラヂオデパート/luki/他

 お知らせがぎりぎりになってしまう理由に、ライヴハウス側のブッキング仔細がなかなか確定しない、という事情がある。バンドの数はやたら多いのに、長く安定して活動する人が少ないのだ。
 青い部屋でも屋根裏でも、ラヂオデパートがオープニングアクト(前座)ということはもはやあり得ず、だいたいトリ前かトリなので、時刻的には午後九時前後。よって今後は、日程だけでも早めにお伝えしようと存じ上げる次第。

左利きのテルミン

2009-09-26 23:22:00 | 他の機材
 奥野が屋根裏で演っているインストゥルメンタル・ユニットを手伝ってくれと云う。
「テルミン持ってきてください」と普通に。そういう変な楽器は弾けるもんだと思われている。多少は弾けますが。
「ギターじゃ駄目なの」
「バンドのルールで、絃、四本までなんですよ。エレキウクレレないっすか」
 どういうルールだ。ともかくギターレスという方針らしい。小さい変な楽器でぎゃんぎゃん演ってほしいみたいだが、そういうウクレレの使い方には興味がないので、テルミニストとして参加すると決める。
 僕が持っているのはMatryomin。一本アンテナの、シンプルだがなかなか高性能な本体とスピーカーが、本物のマトリョーシカの中に入っている。冗談商品のようだけれど、菩提樹をくり抜いたボディが良い響きを生んで、太く甘い音がする。
http://mandarinelectron.com/

 本格的なテルミンには二本のアンテナが有り、右手で音程、左手で音量(消音)を操る。
 MoogのEtherwave(エーテル波の意) Proが欲しかったのだが、値段にびびっているうちに販売中止になってしまった。今ならEtherwave Plusかな、などと相変わらず計画ばかりで購入に踏み切れずにいるのには、一つ理由が。僕のテルミン演奏はサウスポーなんである。さいわい触れずに演奏する楽器だから反対側に立てばいい訳だが、するとコントロールパネルがお客の方を向いてしまう。
 初めて現物のテルミンに接したのは2001年、幕張でのSF大会でだ。t-VOX tourというロシア製の楽器だったと記憶している。
 頻りに手を伸ばしてくる子供達を睨み付けながら、大凡の感覚を掴むまで粘ったが、この時点でもう、自分は左右反転でないと弾けないと諦めていた。ラップスチールにしてもコントラバスにしても、音程を決めるのは左、音量は右。発明者テルミン博士はチェロを弾いたらしい。なのにテルミンで音程を決めるのは右。これは理不尽な設定に思える。
 しかし世人は納得しているらしく、アンテナが左右逆になったテルミンは未だ見たことがない。想像するに博士は、楽器の普及させ易さを優先したんじゃないだろうか。弦楽器をやらない人だったら、圧倒的多数が右手で音程を決めたがるだろうから。

 もっとも僕は――父が書道をやっていた関係上、筆や箸を左に持つというのが考えられない環境で育ったのだが――やや左利き疑惑がある。信憑性の程は知らないが、両手を組み合わせたり腕を組んだりの利き手判断では左利きだし、親から習わなかった所作は左右反転でやっている事が多い。
 ギターはどうなんだと思われるかもしれないが、楽器自体が乏しかった時代に、初心者がぎっちょで始めるなんて考えられなかったんである。左利きを自認している者も、みな普通に構えて練習していた。日本人で逆さに持っていたのは甲斐よしひろと松崎しげるくらいで、二人とも絃の張り方は右利き用だから、すくい上げるような不思議なストロークをしていた。
 実はどちらが利き手というのはさして重大な事項ではなく、本来の利き手に気付かず一生を終える人は多いとも聞く。仮に僕が左利きだとしたら、テルミンというのはやはり利き手のほうが音程を決め易い楽器、という事になる。

 たまに誤解している文章を見掛けるが、ビーチボーイズが〈Good Vibration〉で使ったのはテルミンではなく、エレクトロ・テルミン(Electro-Theremin)もしくはテルヴォクス(Therevox)と呼ばれる、鍵盤代わりの平面に指を辷らせて音程をとるシンセサイザーだ。ビートルズの〈Maxwell's Silver Hammer〉にも使われている。

無敵のチューナー

2009-09-16 10:09:00 | 他の機材
 現行のコンパクト・チューナーではKORGのpitchblack+が最強かと。視認性と精度が半端ではない。使い初めてからバンドの音の聞え方が変わった程。パワーサプライやA/Bボックスを兼ねていたりもするが、僕は単純にチューナーとして直列接続で使っている。音質劣化は感じない。
 こういう名作に限って唐突に製造が中止されたりするんで、余裕のあるとき予備を買っておこうかと思っている。そのくらい良い。

 他、調絃に関しては、ライヴで使用するギターはロック式のチューニングペグ(マシンヘッド)に替える事にしている。昔は素気ないKlusonが格好良く思え、また自分なりに使いこなしている積もりでもいたが、あるきっかけでロック式を手にしたら、それまで「仕方ない」と諦めていたライヴ前と後とのチューニングの変化が皆無になった。無茶な弾き方でも照明の影響でもなく、ただペグ周りで狂っていたのだ。
 Sperzelは見た目は良いが、たまに弛む。最近Schallerを試したところ思いのほか秀逸だった。ただし耐久性は分からない。むかしリッケンバッカーに付いていたのがシャーラーで、ライヴ中に解体してしまった経験があって未だ疑念を拭えない。
 ゴトーのマグナムロックは安物でも頑丈なのでお薦めできる。

バラードな選曲

2009-09-15 09:22:00 | マルジナリア
 執筆と無関係でもない検索中、「J・G・バラード追悼」「セットリスト」といった言葉が並んでいるのを見つけ、思わず立ち止まったら翻訳家柳下毅一郎氏のブログだった。バラードファンが書いたりバラードの世界を想起させる曲をイヴェントで流した、という話らしい。面白いセットなのでまるまる引用させていただく。

"Atrocity Exhibition" Joy Division

"No One Driving" John Foxx

"Chemistry of a Car Crash" Shiny Toy Guns

"Me And J.G. Ballard" Dan Melchior's Broke Revue
"High Rise" Hawkwind

"Down in the Park" Marilyn Manson ft. Nine Inch Nails
"Doctor Jeep" The Sisters of Mercy

"Video Killed The Radio Star" The Presidents Of The United States Of America
"Enola Gay " Orchestral Manoeuvres In The Dark

"Hiroshima Mon Amour" Ultravox

 このたび初めて知ったが柳下氏は僕の一歳上で、まあ同世代。亡き宇山日出臣さんから「(貴方と同い年の)法月(綸太郎)さんはジョイ・ディヴィジョンへの思い入れが深いんだけど、津原さんは」と問われ、どういう意味合いの質問か理解できず、「New Orderでしたら広島で観ました」等と返事したのを思い出す。
 上のセットで僕が最も楽しめるのは、一部読者を落胆させそうだがプレジデンツ。身も蓋もなく肉体系(手仕事系)なもので。
〈ラジオ・スターの悲劇〉がバラードの「音響清掃」にインスパイアされていたとは知らなかった。読んだのに忘れてるし。勉強になりました。ところで何故プレジデンツ版?

 関係ないが柳下氏のブログを読んでいると、元々編輯者だからというのもあろう、交遊ぶりが華やかで感心してしまう。少々羨ましくもある。僕なんざ編輯者との打合せすら滅多にないから、ライヴがなかったりすると、会って話す人間は月に十人に満たない。練習で顔を合わせるラヂオデパートのメンバーもこの数に入っている。
 元々バラード信奉者でもある僕は、柳下氏が携わられた本を「けっこう持っている」方の人間だと思う。ファンと称して過言ではない。よって氏がハリィ・スティーヴン・キーラーの全作紹介――いや願わくば日本での全集上梓の偉業を、為し遂げられる日を心待ちにしている。
http://homepage3.nifty.com/yanasita/HSK/keeler.html