ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

ライヴは愉し

2009-10-03 06:24:00 | ライヴ
 十月朔日、青い部屋にてラヂオデパート。
 ブッキングの鳥井賀句さんから「君等はリハーサル要らないんじゃない」と云われる程度に慣れてきたが、PA係もそうとは限らないので午後五時を目指して渋谷へ。誰も来ない。小山からはリハーサルには間に合いそうもないと聞いていたが、太朗も奥野もなかなか来ない。
 アンプとモニターのチェックだけしておくかと、独りで舞台へ。PAさんに持込みのマイク(エレクトロヴォイスのレイヴン)を珍しがられる。いちおう備付けのマイク(Sennheiserで揃えてある。たぶんシャンソン仕様)と比較したが、レイヴンのほうが圧倒的にゲインが高い。ゼンハイザーを同程度まで上げてもらうとハウって仕方がない。レイヴンの音質は使い込むごとに落ち着いてきて、最近はこれでないと歌った気がしない。つい先日、バスドラムの録音にも使ってみたが、補正不要の音質で録れた。

 アンプは備付けのデラックス・リヴァーブ。良いアンプなのに、見た目が小さくて頼りないからか音色のヴァリエーションが少ないからか、僕以外に使っている人を見たことがない。みなJCを選ぶ。
 失敗に気付く。デラリヴァはヴォクスに較べてクリアなので、くぐもった響きを加えたいと思いついて、なんとなくカールケーブルを持参していた。久々に聴くその音色に、強烈な違和感。ギターにプリアンプが入っているので高域落ちは少ないが、逆にそのせいか、立ち位置によって音にうねりが生じる。ゆっくりとフランジングしているような感じ。どういう理屈なのかは分からない。
 いつものTSC製ケーブルに戻そうとするも、何故かギグバッグに入っていない。入れ替える時にそのまま置いてきてしまった。太朗に一本貸しているが、持ってきてくれるとは限らない。
 そのうち奥野が来て、「津原さん、携帯持ってきてないでしょう。みんな連絡とろうとして必死だったんですよ」
「そういや持ってきてない。ていうか滅多に持ち歩きませんが」
「携帯を携帯しなかったら意味がないでしょう」
 小山も太朗も本番まで来ないという。ドラムとギターで二曲ばかりジャムって、リハーサル終了。

 奥野がヤマハに用があるというので追随し、守備範囲ではないところの楽器や機材を眺める。
 会社帰り風の紳士が、デジタルピアノで“大人のジャズピアノ”教室で習っているのであろう曲を、つっかかりながら奏でている。別のピアノでこっそりと伴奏。奥野がドラムセットがアサインされたシンセで、テクノを叩き始める。ちゃちなミニシンセに移動してHuman Leagueごっこ。
 文化村通りに新しい黒澤楽器が出来ていたので覗いてみるも、高級レプリカ路線に付いていけず。
 いつもの石橋楽器でTSCケーブルにそっくりな特性のCUSTOM AUDIO JAPANのケーブルを見つけ、迷った挙句、三メートルのL字/ストレートを買う。四千円程度だから、流行りの超高級ケーブルを思えば遙かに安い。これを使うと、まずギターの音が大きくなる。伝導効率が良いのだ。ミドルを強調した鼻詰まり音と、ぎらりとした一絃二絃の共存という、僕の矛盾した要求にも応じてくれる。
 結局、いつものセッティングか。

 同店で、伊太利はXOXというメイカーの、カーボングラファイト製のギターの、軽さ(2kg)に驚愕。ついでに試奏したらば、これが物凄く良かった。試奏用のアンプを尋ねられ、「クリーンが出るの」と答えたら微妙に誤解されて、Polytoneで下手なビ・バップ。太いロープを組み合わせたみたいなボディについつい目が行くが、それ以前に音響機器としての精密さが素晴しい。
 有名ギタリストの愛器と同じ瑕や汚れをわざと付けた展示用ギターに何十万、何百万というのは全く理解できないが、こちらは正反対の、演奏力のサポートや移動の便だけを追求したツールである。この「用の美」に四十万は理解できる。伝説や迷信を振り払ったこういう道具のほうが、僕にとっては、よほど純粋に幻想的でもある。そもそもテレキャスターだってレスポールだって、そんな追求の果ての異形だったのではないか。

 出演バンドが少ない晩だった為、思い付いた曲を次々に演って、久々に全員汗だくのライヴ。実験的に今回、小山は全曲でマイクを手に持たなかった。全てスタンド。僕が聴く限り、この方が低音の伸びが良い。マイクロフォンは持参のSM58だったが、手に持たないのならレイヴンで揃えてもらおうと思っている。見た目も格好いいし。
 太朗はTSCケーブルを持ってきていた。ハイゲイン・ケーブルが一本余ったので、本番でそれを使ってもらう。終わったあと「また借りていい?」と云う。「いっぱい持ってるからあげるよ」と答えたら、嬉々としていた。アンプ音の輪郭が明瞭で、弾き易かったのだそうだ。だからいつも云ってるじゃないか。

 本日のお薦め商品。Electro-VoiceのRaven、CUSTOM AUDIO JAPANのケーブル、XOXのグラファイト・ギター“The Handle”。
 本日のルーティング。Burns Steer(TSC Hot Red Pepper内蔵)→KORG pitchblack+→Xotic BB preamp→Fender Deluxe Reverb。

 追記。青い部屋では、ロック、パンク、ソウル、ブルース、ファンク等のバンドを大々的に募集しているそうです。
 ハコやそのホーム頁の雰囲気からか、打込み中心やシアトリカルな“狙った”ユニットの応募が多いんですが、逆に、人力でライヴ勝負のバンドが間違いなく不足しており、そういうバンドにはレギュラー出演や、バンド同士の繋がりを得る恰好のチャンスです。バンドへのノルマ等はなかなか良心的な設定だと、一出演者としては感じています。
 ラヂデパがレギュラーで出ているくらいで、年齢やルックスは問われません。三十代以上の実力派バンドだったりすると、必ずや大歓迎されるでしょう。公開オーディションと称するライヴを経る事が大前提ですが、これも「バンドを知りたい」という以上のものではありません。
 もし津原まで御連絡をくださいましたら(津原公式サイトのトップ頁からメールできます)、だいたいの演奏環境は御説明できます。ちなみに津原と青い部屋の間に、特別な関係はありません。ただ「バンドいない?」と問われているだけです。