私の「認識台湾」

個人的な旅行(写真)の記録を主眼としつつも、実態は単なる「電子落書き帳」・・・・

滑舌の悪さで炎上した安倍首相

2007年04月04日 | 極東情勢(日本とその周辺)
日米双方の稚拙さが露呈した感がある「六者協議」と「慰安婦騒動」ですが、後者に関しては、初期段階での「火消し」の機会を逸した時点で具合が悪そうだなぁという気はしておりました。戦前以来、謀略戦において連敗街道を驀進中の日本ですが、今回の騒動は安倍首相の滑舌の悪さと官邸の対応の拙さが火に油を注ぐ結果となった面は否めないと思いました。

◆「河野談話」を継承、首相が米大統領に電話で伝える(読売)
◆Bush applauds Abe 'candor' on 'comfort women' (AFP)
◆慰安婦決議案 米上院議員が反対書簡(産経)

安倍首相はブッシュ大統領との電話会談の中で、「(米国内で)自分の真意や発言が正しく報道されていない」と述べたそうですが、今回の件に関しては個人的にはいただけないですね。APやAFP等の外電は、〝sex slaves〟という単語共々、安倍首相が「強制性」を全否定したかの如く連日報じていましたが、「広義の強制性はあったが、狭義の強制性を示す証拠はない」といった表現は、そもそも日本人の目にも明快とは言い難いものです。(「広義の意味では浮気と言えるかもしれないが、狭義の意味での浮気行為は断じてなかった」と抗弁して納得してくれる物分りのいい女性であれば、私自身再婚を検討してもいいかも・・・・)
安倍首相は、河野談話と自身の信条とのバランスを取ったつもりなのかもしれませんが、要は「何を言ったか」ではなく、「何が伝わったか」が問題であり、正しく翻訳すらされないような物言いでは国際的に通用しないという教訓を汲み取る必要があろうかと思います。
塩崎官房長官以下の官邸スタッフのお粗末さも目に余ります。女房役である塩崎長官は滑舌の悪い首相(今回に限ったことではないですが・・・・)の真意を噛み砕いて伝える役割を充分に果たしたのか。また世耕補佐官は非公式の外交ルートや主要メディアとのインタビューなどのPR活動等の〝地ならし〟を考えなかったのか。(この件は昨年来伏線があった訳ですから・・・・)。
英語が堪能な塩崎長官、広告代理店出身の世耕補佐官共々自らの得意分野が不発に終わった格好ですが、「リリーフ不在」の安倍内閣の脆弱性を露呈した一件ではなかったでしょうか。

勿論、ホンダ某を筆頭とする下院の連中は不遜極まりない輩ですが、私だったら昨年の中間選挙以来の趨勢も鑑み、初期段階での「火消し」を逸した時点で、波紋を呼ぶような言動は(不本意ながらも)慎んだと思います。
3月初旬の読売新聞で、CSIS日本部長のマイケル・グリーン氏は、「慰安婦問題で同情されるのは被害者女性だけで、日本が政治的に勝利することはない」「強制性の有無を解明しても、日本の国際的な評判が良くなるという話ではない」という見解を示していましたが、当初下院で日本を擁護していた共和党のローラバッカー議員も、「日本はこれまでに十分な反省も償いもしている」という論拠に基づくもの(懐かしのダニエル・ケン・イノウエ民主党上院議員も同様)でした。安倍首相自身(総論賛成・各論疑義というスタンスではあるものの)河野談話を継承云々と述べている訳ですが、彼自身の滑舌の悪さが災いして〝味方〟を失ったのは遺憾なことでしたし、拉致問題との絡みで北朝鮮にツケ入る隙を与えた(ワシントン・ポストもこの論調を掲げていたなぁ・・・・)のも首相の「自責点」としてカウントされるでしょう。
今更下院がこの件を蒸し返すことの不当性を訴えたいのであれば、擁護派の論拠に乗っかるのがもっとも効果的であり、そのうえで「・・・・にも関わらずこのような理不尽極まりない非難決議が可決されるのであれば、今後の日米の同盟関係に重大な影響をもたらしかねない」とワシントンを恫喝してやる(特措法の延長保留とか訪米をグズるとか、日本側の不満を伝えられるカードも色々ある訳ですし・・・・)方が合衆国内の世論や各国の共感も得られたでしょうし、少しは溜飲が下がったのではないかと思います。

「戦後レジームからの脱却」を提唱する安倍首相ですが、その最終的なゴールが「打倒ヤルタ・ポツダム体制」であるとするならば、現実問題当面は不可能であると言わざるを得ません。ヨハネの福音書の一節に「汝ら、罪なき者のみこの女に石を投げよ」といった件がありましたが、第二次世界大戦における日本という<絶対悪>にはキリスト教徒も容赦なく石を投げつけ、臥薪嘗胆の日々が続く・・・・これを完全に打破するには(靖国騒動の際も思ったことですが)、極論すれば何らかの形で戦勝国に返り咲く以外にない。
しかしながら、「濡れ衣を着せられても黙っていろ」という法があるわけでもありません。屋上家を重ねるが如き拙速な政治判断とも言える河野談話が内外に禍根を残したのは事実ですし、その内容に対して疑義を呈したり、覆したりすることが禁じられているわけではありません。問題は、今がそれにふさわしいタイミングかどうかということだろうと思います。

先頃来日公演を行ったイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団では、ヒットラーが愛聴していたR.ワーグナーの演奏はご法度とされています。楽団側は25年程前のアンコールで、聴衆の許可を得たうえでの演奏を試みたのですが、それでも暴動が起きてしまい、「ホロコーストの犠牲者が生存している間は演奏しない」と決めたのだそうです。慰安婦の件も含め、先の大戦に関する冷静な検証にはまだしばらくの時間が必要なのかもしれません・・・・


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1 コメント

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スルー力 (やくも)
2007-04-08 10:41:19
ある種生真面目なんでしょうね。言ってることが正論でも世の中それだけでは渡ることは出来なくて、原理原則的に反応してしまう我が国の首相は小泉前首相や麻生外務大臣のような適切なスルー力を持っていただけるといいんですけどね。

"抗日"系団体の支援を受けるホンダ議員などのがんばりで米メディアは"今そこにある危機"よりも既に解決した問題で盛り上がってしまうのですから、本エントリーでも仰る通り根回しがなっていなかったと思います。六カ国協議が止まると決議案が先送りされるというあまりに分かりやすい目的を持っている訳ですから(笑)日本外交を切り崩そうとする勢力への対策が徹底されていない印象を受けます。トルコみたく凄まじい反論をする訳でもないですし、そもそもの対策方針を官邸で徹底しないと拉致問題と核問題は見果てぬ夢になりかねませんね。
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