先のNYP平壌公演の記録はDVDでもリリースされる(EuroArts.com)模様(商業録音の匂いがした)ですが、音楽商品としての〝Philharmonic in Pyonyang 〟はどのような反響を呼ぶでしょうか。(周囲の非クラヲタ系人間は、「アメリカは」という主語で、その姿勢に疑義を呈する向きが多かったですが・・・・)
全国紙では、讀賣が公演翌日の社説でこの件を取り上げていましたが、オーケストラ(讀賣日本交響楽団)を持つ世界唯一の新聞社だけあって、素早い反応でした。
◆Korean overtures(FT.com)
◆Orchestra Exits for Seoul(WSJ)
◆NYフィル平壌公演 日本人演奏者、複雑な思い(朝日)
◆「平壌公演は政治ではなく人間同士の疎通」マゼール氏(中央日報)
<The New York Philharmonic played parts of George Gershwin's An American in Paris . Given the deprivation endured by most North Koreans, Gershwin's "I Got Plenty o' Nuttin' " - taken from his opera, Porgy and Bess - might have been more appropriate.>
(ニューヨークフィルハーモニックは、ジョージ・ガーシュインの「パリのアメリカ人」という作品を演奏した。窮乏にあえぐ北朝鮮の大多数の人々を想えば、彼のオペラ「ポーギーとベス」から「ああ、俺にはないものばかり」を演奏する方がふさわしかったのではないか)
英FTの社説のこの一節は、英高級紙一流のスパイスが効いていて唸らされます。「ポーギーとベス」は、虐げられた貧しい黒人たちの悲話を描いた作品ですが、日本の新聞ではこういう捻りは中々お目にかかれないところですね。
<But the bonhomie with which this rare cultural encounter is being conducted should not obscure the serious issues that still remain unresolved - North Korea's nuclear programme and the regime's treatment of its own people.There is always a risk that exchanges of this sort may serve to legitimise the rule of Kim Jong-il. We do not know what spin North Korean state media will put on the visit, and the Philharmonic could yet be turned into an unwitting propaganda instrument.>
(しかし、今回の希少な文化交流がもたらした融和ムードで、北朝鮮の核開発問題と国民への圧制という未解決の深刻な問題が覆い隠されるのは適切でない。この種の交流には、金正日が支配する政治体制を正当化しかねないという懸念がいつも付きまとう。北朝鮮のメディアがどう脚色して報じるかも判らないし、オーケストラの楽器が、知らぬ間にプロパガンダの小道具に化けないとも限らない)
公演に対する批判的な意見は、概ねこの論点に集約されるといえるでしょう。私自身は、かつてマゼール氏が「神戸クラシックエイド」というチャリティーを開催し、被災者を支援してくれた(記事)点には恩義を感じておりますし、中東和平を訴え、イスラエル、パレスチナ両国の若者から成るオーケストラを率いたバレンボイム氏(指揮者・ピアニスト)の例もあります。音楽に秘められた可能性に期待し、基本的には楽団側の決定を理解し、尊重するというのが自身のスタンスではありました。まぁ、それでも「公演に来られなかった人がどれだけいるか、思いをめぐらせてほしい」「飢餓や抑圧があり、人々が自由で豊かな生活を送れない状況を心に留めておく必要がある」(ペリーノ大統領報道官) という観点から、「生涯最高の歓待を受けた」(中日)というコメントを眺めると、マゼール氏はいささか浮世離れしていると申しますか、俗にいうKY的発言というそしりも免れないように思いますね。(〝Asia2008〟のツアー中は、連日のようにクレディ・スイス主催のレセプションが催されていたようですが、宴会ボケしちゃったかね?)
核施設の無能力化と核計画の完全かつ正確な申告という合意事項が着実に履行されていれば、米朝関係の「雪解け」を象徴する歴史的な公演ともなったのでしょうが、その点における合衆国の思惑は外れました。大統領報道官から国務省報道官、遂にはライス国務長官やブッシュ大統領にまで〝ダメ出し〟発言のバトンが渡り、今回のNYP平壌公演を「拡大解釈」する向きの〝火消し〟に躍起になっている様はいささか滑稽に映ります。
結果的には、終始「前のめり」だったヒル次官補の一人相撲だけが際立った格好となりました(この人これからどうするんだろ?)が、第二次「アーミテージ・レポート」(記事)が朝鮮半島情勢に関して厳しい見通しを述べていたことを思い出します。
政権末期になると、極東(北朝鮮)政策がグラグラし出すのは、クリントン政権以来の特徴となった感もありますが、ブッシュ政権の残り任期を考えれば、膠着状態のまま時間切れ、となる公算が高いようにも思いますね。
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