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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

元旦にお墓参り

2018-01-01 23:33:34 | 民俗学

 “すり初め”で触れた飯田市丘の上の美容院での会話では他にも興味深いものがあった。元旦は近くの神社に初詣をした後、ハカマイリをするという。お墓は菩提寺にあるようで、その際にお寺にも新年の挨拶をするというが、目的はあくまでもハカマイリ。美容師さんは「どこでも行くのでしょ」と言うが、我が家では正月に墓参りをするという風習がなかったたし、周囲でも墓参りをする家を聞かない。ただ、我が家では父が正月2日に亡くなったこともあって、最近は正月に墓参りに行くようになっているが、それはあくまでも初墓参りという意図ではない。

 かつて箕輪町の深沢川の南側段丘上にある墓地の事例から初墓参りのことについて触れたことがある。正月明けに380区画ほどある墓地内を歩いてみたが、正月明けはもとろん年末も含め墓にお参りした雰囲気のある墓がほとんど見られなかった。飯田市誌編纂事業で取られたアンケートを図化したものを「年明けの墓参」に掲載したが、この地域では元旦に墓参りをするという家が飯田市の中心地域を中心に多いことが分かった。とはいえ、その図を見る限りこの地域すべて元旦に墓参りをするというわけではなく、やはり彼岸に墓参りをするという家も多いことがわかる。また、飯田市南部では小正月に墓参りをするという事例が多かった。

 「年明けの墓参」でも触れたが、では全県を見渡すとどうなのか、『長野県史 民俗編』の第1~4巻(二)「仕事と行事」に「初墓参り」を拾ってみた。いつも通り分布図にしてみたわけだが、今回の特徴は、同じ調査地点で複数回答が少ないということ。いつもは同じ地点で複数回答があって、作成後の調整に手間取ることがあるのだが、それほど事例が多くないので、今回は初出の回答を分布図データにさせてもらった。さらに凡例の中に割合を示した。まずその数値から捉えると、最も多いのは「彼岸」。この「彼岸」はもちろん春の彼岸に当たるが、5割近い回答率を示しており、ここから分かるのは、この質問の意図である「初墓参り」(「年があけてから初めて墓参りに行くのはいつですか」)という意識は県民のほとんどにないのかもしれないということ。年が開けたら墓参りに行く、確かに我が家(生家)にもなかった考えである。図でもわかるように、8月、いわゆる盆前に至ってようやく初めて墓参りをするという回答も見られる。とはいえ、残りの5割ほどは1月に墓参りをしているから、けして年明けの墓参りが少ないというわけではない。

 では地域性はどうなのか。かなり回答が混在しているという地域が、やはり飯田下伊那と言えるだろうか。とりわけ小正月に初墓参りをするという回答は飯田下伊那に集中している。そのいっぽうで25パーセントを占める1月16日に墓参りをするという回答が飯田下伊那には少ない。1月16日という事例は諏訪では色濃く、安曇野から北安曇や犀川流域に多く見られる。また元旦に墓参りをするという事例は全県に点々と分布する。そして彼岸に初墓参りをする事例は上伊那、松本、北信域を中心に全県に分布する。わたしの生家のあたりは、元旦という回答もあれば小正月という回答もあり、混在エリアである飯田下伊那の傾向に強いようだが、繰り返すが我が家では正月に墓参りはしなかったと記憶する。

 

 

 

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