日本の心

激動する時代に日本人はいかに対処したのか振りかえる。

頭山満 述「英雄ヲ語ル」西郷南洲(5) 國を以て城となす

2020-05-30 16:49:34 | 頭山 満

   
頭山満 述
  西郷隆盛(5)

   

  

國を以て城となす
 古来薩州には城らしき城はなかった。
 「國を以て城となす」と言ふ言葉を實踐したものだ。實
に愉快な言葉だ。

 戦爭をする以上は國の生命、全國土を擧げ敢えて一歩も譲らざる、大信念と覺悟が肝要だ。

 國土全部、國民全部が皇室の城であり、要塞であり、兵隊であるのだ。
此覺悟と信念がなけ
れば、所調、擧國一致は出來ない。

 南洲遺訓に實にいいことを訓へてをる。
即ち
「國の淩辱せらるに當っては假令國を以て斃るるとも正道を踏み、義を盡すは、政府の本務なり、然るに平日金穀利財の事を議するを聞けば、如何なる英雄かと見ゆれども、一朝血の出る時に臨めば、頭を一所に集め、唯目前の苟安を謀るのみにして、戰の一字を恐れ、政府の本務を墜さば、商法支配所と言ふ可きのみ、更に政府には非ざるなり」と喝破してをる。
 實に痛快ぢゃ。

 遺憾乍らつい近頃まで、日木にもこん政府が全然なかったとは断言出來まい。
要路の者が一身の苟安のみに執着し國家生民の爲に計らず、一身一家の名利に念にして、國家の大局を誤った例は枚擧にいとまないのだ。
 大臣宰相たる者は一死君に報じ、社稷の人柱となる覺悟がなければ、決して善政を敷くことは出來ぬ。
 古歌に
    事
とあらむ君が御楯となりぬべき
       身をいたづらにくだしはてめや
とあるは此間のことを詠じたもの切だ。
 
   

己れ其人に成るの精神

 後藤(象二郎)であったか、副島(種臣)であったか、自分に、近頃は人物がなくて困る、と言ふから自分が、貴方が人物になったらよからうと言ふとヤーと言うてをつた。
 大西郷の「南洲遺訓」に、
 「人は第一の寶なり、己れ其人に成るの精神肝要なり」と言うのがある。

 即ち、
「何程制度方法を論ずるも、其人に非ざれば行はれ難し、人有て後方法の行はるるものなれば、人は第一の寶なり。己れ其人に成るの精神肝要なり」と言うのだ、寳にい、言葉だ。
 千古の金言だ。

 名将黒田如水の歌にも
    人多き人の中にも人は無し
       人になれ人人になれ人 
と言ふのがある。仲々人らしき人はないものぢゃ。法や制度は死物、之を運用するのは人ぢゃ。如何に制度、方法を巧妙に精備しても之を運營する人に、眞の人を得ざれば、三文の價値もない。
結局、眞人は第一の寶ぢゃ。


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