Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

お遍路を歩き通すために/岩屋寺~八坂寺

2011-04-26 | お遍路
 
 お遍路の旅立ちまで、後二週間。
 一ヵ月半に渡る長期間歩き続けるための脚力は大丈夫だろうか?
 一番気にかかる問題を、出発前に試しておく必要がある。

 一日の平均歩行距離が20km~30km。
 その距離+αと山道の行程も加味してルートを検討。
 やっぱり三月に途中リタイアした岩屋寺~八坂寺ルートが最適と判断。
 岩屋寺~大宝寺の間を往復するのも面白味がないので、
 前回通り県道153から山越えで岩屋寺へ至るルートを選択。
 これだと全体の1/3以上が山道となる。
 そして全歩行距離が、おおよそ45kmくらい。

 4/24日曜日は、ひんやり肌寒い朝だった。
 八坂寺に最も近そうなJRバスの停留所は、砥部の城南JA前。
 久万高原方面への始発バスが6:55…これもいい時間だ。
 バイクをJAの駐輪場へ置き、バスに乗り込む。
 朝の光が萌える若葉を輝かせる車窓の景色に目を奪われながら
 三坂峠越えで久万高原に7:40に到着。
 コンビニで飲み物と朝昼ぶんの食べ物を仕入れ、
 県道153分岐到着が8:10。
 さぁ出発だ。

 
 
 
 

 予想通り県道歩きは面白くない。
 植林された暗い杉林沿いのつづら折れをひたすら登る。
 車が全然通らない…あっショウジョウバカマが、たくさん咲いている。
 いつもならカメラを取り出すところだが我慢。
 一度撮り始めると30分は軽く超過してしまう…我慢、我慢。

 向こうに自転車を押す人影…今日始めての乗り物と人に遭遇(笑)
 青いジャージの中学生。
 「こんにちは」本当に田舎の子供は気持よく挨拶してくれる。
 こちらも嬉しくなって笑顔で「おはよう」
 あれ?でも子供がいるということは、この先に人家があるということか?

 しばらく行くと視界がひらけて山間(やまあい)の小さな集落と出会う。
 茅葺屋根をトタンで覆った懐かしい佇まいの軒が並ぶ。
 庭先には春の花々が彩り鮮やかに咲き誇り、ちょっと桃源郷に迷い込んだ気分。
 そして、この先にもそんな春の夢に迷い込んだような風景が続く。
 極めつけは、素鷲神社のある最後の集落。
 上の画像3点がそれで、谷津を縫う綺麗な小川(蛍がいそう)の先に
 道祖神が祀られ(本当に遍路道沿いにはお地蔵さんや道祖神の石仏が多い)
 集落の丘の上には、ノスタルジックな旧い分校が残っていた。
 素鷲神社通過が10:10だから、これらの集落で写真を撮り過ぎた。
 このロスタイムが後半響いてくる。

 この先、アスファルトの路面が終わり、山道が続く。
 適当な杖をみつけて登り続ける。
 最初にみつけた桜の杖は直ぐ折れてしまうが、2本目の杉の杖は
 ゴールの八坂寺まで頼りになる足の支えとなってくれた(感謝)

 大宝寺から岩屋寺を結ぶ遍路道(四国のみち)と合流するまで
 ひとりのお遍路さんとも出会わなかったのが不思議?
 確かに道は多少荒れてはいるが、全体によく人の手が入っている印象。
 山歩きに慣れた人なら、まったく気にならない程度の荒れぐあい。
 それ以上に、今回の遍路道のハイライトは山間の集落の風景にあったと思う。
 四国のみちと合流して、途端にお遍路さんと出会うようになる。
 岩屋寺到着が11:50。

 
 
 

 セルフポートレート撮影と昼食後12:20岩屋寺 出発。
 まだ最初の札所なのに12時を廻ってしまった。この先の行程に不安がよぎる。
 
 落ち葉を敷き詰めた道は適度にクッションがきいて歩きやすい。
 途中の展望がひらけた場所で「石鎚山は見えますか?」と聞かれる。
 よく目を凝らすと、遠く左に延びた尾根伝いに堂ヶ森と西ノ冠岳の間に石鎚が。
 「ほら、あそこに」と指差す。

 
 
 

 車の往来の多い県道と遍路道を繋ぎながらトンネルを迂回した山道を越えて
 大宝寺到着が15:30。
 そのまま素通りして久万の街並みを抜けて国道沿いを歩き続ける。
 今日は、ひんやり風が冷たくて歩きやすい。
 そのかわり全体にどんより曇りがちの空模様。
 三坂峠手前の休憩所で冷たい缶ジュースとのど飴のお接待を受ける。
 「ありがとうございます」合掌してありがたく頂く。
 冷たいサイダーの喉越しが嬉しい。

 三坂峠を前にして、ふっとバス停の時刻表に視線がとまった。
 6時前のバスがある。
 このまま行くと八坂寺到着は、とっぷり日が暮れてしまう。
 明日の仕事のことを考えると、三坂峠をゴールとしてバスに乗った方が正解だ。
 三坂峠で、ほぼ30kmは歩いている…もうこれで充分じゃないかと思った。
 それに今なら足の疲労も、ほどほどで明日に残らない程度の筋肉痛で終わりそうだ。

 「だめだ」身体の内側から声が聴こえた。
 ここで、ほどほどで手を打つと、長いお遍路の行程中、
 いつも中途半端な形で挫けてしまう。
 とにかく最初に決めた八坂寺までは歩き通そう。
 これは自分自身が決めた四国遍路1200kmを歩き通すための賭けだ。
 三坂峠のバス停を横目に山下りの遍路道へ足を踏み出す。

 
 
 

 山道を下り始めて、しばらく行くと夕陽に染まる山櫻が眼に入った。
 「あぁ綺麗だな」止まった視線の、さらに先に目を奪う風景がひらけていた。
 夕照に照らされた山櫻が斜面に連なり、萌黄の若葉が浮き立つ稜線が重なる。
 そして淡く墨の濃淡をグラデーションした遠い山並みが視線の奥に融けてゆく。
 「あぁ~きっとお大師さまは、この風景を観せたかったんだ」
 お遍路の途上で、幾度かこんな心を震わす風景と出会ことうだろう…
 そして、それは諦めないで足を踏み出した心の変化が観せてくれた風景だと思う。

 充足感に浸りながら山道を下っていると、膝に痛みが走る。
 今日は、慌てて家を出たので膝のサポーターを忘れてしまった。
 歩き始めて気がついたが後の祭りだ。
 ここまでは大丈夫だったが、やっぱり痛みが来てしまった。
 休み休み、膝を庇いながら下り続ける。
 旧い遍路宿「坂本屋」まで来ると、下り勾配もゆるやかになり路面もアスファルトに変わる。
 勾配がゆるくなると痛みが消えた。
 

 宵闇の藍の深みのなかにポツリポツリと懐かしい街路灯の明かりが灯る。
 郷愁の風景…夏の夕暮れの帰り道が脳裏に重なる。
 「上を向う~いて歩こう~涙がこぼれないよぅ~に」
 サントリーのCMソングで蘇った永遠のスタンダードナンバー。
 震災復興の応援歌をくちずさみながら歩く。
 「上を向いて歩こう」を日本の国歌にと主張する人がいた。
 ダウナー系の「君が代」よりも再生と希望を唱う坂本九の歌声の方が
 ずっとアスリートたちや希望を失いかけた人々の心に響くと思う。
 遠い街あかりを見ながら真っ暗な夜道をとぼとぼ歩き続け、そう思った(笑)

 浄瑠璃寺を横目に、父母と歩いた散歩道を辿り八坂寺到着が20:10。
 お大師さまに無事歩き通せたお礼を言い手を合わせる。
 ずっと足の支えになってくれた杖を境内の隅に置かせてもらった。
 「ありがとう」

 さて、それから更に夜道を5kmくらい歩いてJAの駐輪場まで。
 自宅に帰り着いたのは9:35。
 疲れたけれど、気持ちのいい疲労感でした。
 さぁ、これでお遍路を歩き通せる自信がついた。
 但し本番で歩く時間は8時間から10時間まで。
 夕方の5時か6時までには一日の行程を終わらせる予定。



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