昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[ブルーの住人] 蒼い情熱 ~ブルー・れいでい~

2023-04-22 08:00:10 | 物語り

(九)グリーンのロングベスト

 ホールは、若者たちで一杯だった。
対になって、踊りに興じている。
しかしその誰もが、視線を合わせようとはしていない。
互いの斜め先に視線を置いて、踊りに興じている。
これも又、少年の思い描くものではなかった。
少年の観たアメリカ映画では、じっと互いの目を見詰め合っている。
時に微笑みを貰い、そして微笑みを返す。
しかしこの場では、苦痛に歪んだ表情を見せ合っている。
羨望、軽蔑、そして憎悪が睨みを利かせている。
それも又、愛の起源ではあろう。

 バンドは、一段高いステージの上にいる。
激しく体をくねらせながらプレイしている。
そのステージの下段に、何のためのものか判然としない鏡が貼られている。
その中で若者たちが、やはり体をくねらせている。
その鏡から視線を外して壁に移る。
そこには、種々のグループサウンズのポスターが貼ってある。
べたべたと貼り付けてある。
そしてその下には、熱狂的ファンなのだろうか、殴り書きがある。
大半が、‘○○命!’であり、シンプルに‘好き!’もあった。



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