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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (十六)失礼しました。

2024-11-20 08:00:40 | 物語り

 失礼しました。わたしのことはさておきまして、小夜子さんのおはなしを聞くことに。
ああまた善三さんが吠えてらっしゃいます。
こんどは立ちあがって威圧されます。
「小夜子! あの国賊がおまえの一生をだいなしにしたんだろうが。
それがあんな男を最後までかばいよって。どうだ。
いまからでもいいから、ほんとのことを話してみんか」
「だから善三さん。その話をこれから聞かせてくださるんですから」
 思わず言ってしまいました。

わたしのお仲人さんである善三さんをたしなめてしまいました。
「まあまあ、まだそんな無粋なことを。
これから可憐なしょうじょの恋物語りを、そして正夫とのことをお話しするのですから」
「まあいいさ。いまさらのことか。
職も辞していることだし。もう口をはさむことはない。
存分に話をすればいい」
 善三さんは仏頂づらでどっかとすわりこまれましたが、小夜子さんは相変わらず涼しいかおでおられました。
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「それではお許しの出たところで、お話をつづけさせていただきます」
 先日のように神社拝殿のかいだんに腰をおろしていますと、うっそうとした樹木のかげから参道によろよろとボサボサ頭の浮浪者が出てきました。
もう驚いたのなんの、おもわず、口をふさいでしまいました。
その浮浪者は、たぶん白い――というよりも白かったと思える――あちこちが黄色がかった開襟シャツを着ていました。
ズボンは、ズボンの色は覚えておりません。
黒かったような、それとも汚れのひどさでそう見えたのか。
足下といえばゴム草履のようなものでして、体から悪臭がでているように感じました。
すぐに灯籠のかげにかくれましたので、さいわいにも気づかれずにすんだのです。

 浮浪者はそのまま拝殿のかいだんに、たおれるように座りこみました。
土色のかおいろで、口まわりも無精ひげだらけで。
怖いものみたさともうしますか、せいらいの好奇心の強さからともうしますか、しばらく見ていました。
もちろんのこと、なにかあれば、すぐにも通りにかけだす態勢はとっております。

「もう、お兄さまったら! どうしてそんな大切なご本をなくされますの。
いのちよりも大切なものだと、おっしゃられているのに」
 聞きおぼえのあるおこえです、すこしかん高いこえは、まぎれもなく一子さんのこえでした。
とすると、あの浮浪者のような男が三郎さまだということに? 

「一子、良かった。あったよ、ここに」
 賽銭箱の後ろから、なにやらひっぱりだされました。
隠すように置かれていたふろしき包みが手にされています。
そしてすぐに包みのなかを確認されています。



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