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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[淫(あふれる想い)] 舟のない港  (三十三)そう、あのむすめね…。

2025-07-04 08:00:30 | 物語り

「そう、あのむすめね…。あの娘のこと、好きなのね」と、小声で呟いた。
 いつもの男なら、そのまま聞きながしてしまう。
しかし、今夜の男はちがった。
このまま無言をとおせば、気性の激しい麗子のことだ。
どんなしっぺ返しをくらうやもしれない。
それこそ私立探偵をつかってでも、ミドリの特定をしてしまうかもしれない。
そして……。考えるだけでもおそろしい。

 気色ばんで男は言った。
「な、なにを言いだ出すんだ。
あの人とは何でもない。友人の妹だ。
3人での食事の約束だったんだ。
友人の都合が悪くなってのことだ。
だからふたりだけの食事になっただけだ」

「あら、そう。お食事のできるナイトクラブがあるとは、知らなかったわ」
服を着おわった麗子は、いつもの麗子に戻っていた。
「時間が早かったからだ。ナイトクラブを知らないと言うから、連れて行ったんだ。
だいいち、俺がだれと食事しようと、ナイトクラブに行こうと、きみには関係ないじゃないか!」
 男は、語気するどく言った。すらすらと嘘がつけた己に、男は驚いた。
嘘をつく必要はないのだ。
なぜ、弁解がましいことを麗子に言うのか、男にはわからなかった。

「ホントにそうかしら。下心があったんでしょう、貴方に。それで、振られたわけ?」
 男の平手が飛んだ。
麗子は、信じられない、といった表情で男を見つめた。
会社内で男の噂を聞き、その真偽を確かめるべく来たのだ。
そして、人事課の友人からの情報が入ったこともあって。
麗子の打算かもしれない、しかし……。

「そろそろ、彼、戻れるかもよ。取引先からの引きもあるようだし。
外部には、体調を崩してのこと、と言うことになっているしね。
実のところは、あの部長のきげんを損ねたことからの、資料部行きでしょ?
『面子をつぶされった!』って、すごい剣幕だったしね。
たしかめたら?、彼の元にも内示ぐらい届いているんじゃない?」

 しかしそれらのことだけで来たのではない。
認めたくはないが……。
男を、麗子の元に引きもどせば解決する。
もう一度、自分を抱かせればもどってくる。
いや自分が男の前に立てば、泣いて復縁を迫ってくるはずだ、許しを乞うはずだ、と考えていた。

 ところが、まだ帰って来ない。
まさか、という気持ちを抑えることができなかった。
手紙は読んだはずだ。
ならば、小躍りして 待っているはずだ、と信じて疑わなかった。
会社から直帰すれば、六時半には着いている。
遅くとも七時だと思い、麗子は七時半に来た。



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