昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

えそらごと (二)

2018-05-29 08:00:20 | 小説
 次第にラジカセから流れる声とにズレが生じ始めて、隣の社員が大きく広げた手に、飛び跳ねた足がもつれてしまった彼の体が当たってしまった。
見咎めた部長から
「おい、そこ。キビキビとやりなさい!」と、声が飛んできた。
みな一せいに振り向いて彼を見た。

(何でだよ、おれ以外にもかったるそうにやってる奴、いっぱい居るだろうが。
というより、ほとんどみんな、そうだろうが。
マジメにやってるのは、あんたとあいつだけだろうに。

ジョーダンじゃねえぞ。
くそ、もう辞めてやる!
どうせ仕事に嫌気がさしているんだから。
何でかって? そんなもん…)。

すぐには思い浮かばない彼で、少しの間を置いてから、どす黒く留まっていた澱(おり)を吐き出した。

(仕事で使う車が軽自動車だということだよ。
出足・加速・クッション、全部最悪なんだよ。
まったく腹が立つ。
何だそんなことかなんて言われたくないね。
一日中車に乗ってる身にもなってみろよ。
へたすると昼飯だって、パンをかじりながらとかおにぎりをほおばって走らせてるんだから。
その上に、車の乗り方で上司にねちねちと小言を言われているし)

彼にも言い分はある。
荷物のさばき量は彼が一番だ。
しかしそれを口にしては経費がかかりすぎだし、事故らないかと気をもませられると、更にお小言を頂戴してしまう。
確かに交差点での発進でゼロヨンスタートまがいにアクセルを噴かすことはある。
角を曲がる折りにもタイヤを軋ませながら速度を出来るだけ落とさずに曲がろうとする。
けれども事故の経験はないと胸を張る。
そんな時に必ず引き合いに出されるのが、彼がマジメ人間だと称する岩田のことだ。
丁寧な仕事ぶりが主任に評価されているが、若者らしさがないと彼は思っている。


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