(一)ごっちんこ
カーテンのすき隙間から射るようにさし込んだ朝の光が、閉ざされた目をするどくえぐった。
顔をしかめながら、大きく背伸びをする。
ベッドの中からもそもそと起き出して、そとの景色に目をやった。
その四角いかぎられた世界には、ただ一つポプラの木がそびえ立っている。
その大きな葉が風に揺れ、時折透ける太陽の光ーほんの一瞬間であっても惜しげもなく光を投げる太陽の光が、ひどく眩しく感じられた。
トントンとドアが叩かれ「カズオさーん、はいりますよ。おはようー!」と声がかかり、ドアが開いた。
「ああ……」
いつものように気のない返事をかえす。
「はあい。それじゃあね、おねつとけつあつをはからせてくださいね」
いつものにこやかな笑顔を見せながら、看護婦がベッド脇に立つ。
「はい。68の121ですね、いいですよ。おねつは……と、あら? ろくどさんぶだわ。どれどれ、ごっちんこではかりましょうね」
と、おでことおでこを合わせてのごっちんこをする。
平熱であるにも関わらずのごっちんこだ。そしてこの毎朝のごっちんこが、わたしを、穏やかな気持ちへと導いていくのだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます