昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[ブルーの住人]第六章:蒼い部屋 ~じゃあーずー~

2024-05-25 08:00:43 | 物語り

(一)ごっちんこ

 カーテンのすき隙間から射るようにさし込んだ朝の光が、閉ざされた目をするどくえぐった。
顔をしかめながら、大きく背伸びをする。

 ベッドの中からもそもそと起き出して、そとの景色に目をやった。
その四角いかぎられた世界には、ただ一つポプラの木がそびえ立っている。
その大きな葉が風に揺れ、時折透ける太陽の光ーほんの一瞬間であっても惜しげもなく光を投げる太陽の光が、ひどく眩しく感じられた。
 
 トントンとドアが叩かれ「カズオさーん、はいりますよ。おはようー!」と声がかかり、ドアが開いた。
「ああ……」
 いつものように気のない返事をかえす。

「はあい。それじゃあね、おねつとけつあつをはからせてくださいね」
 いつものにこやかな笑顔を見せながら、看護婦がベッド脇に立つ。
「はい。68の121ですね、いいですよ。おねつは……と、あら? ろくどさんぶだわ。どれどれ、ごっちんこではかりましょうね」
 と、おでことおでこを合わせてのごっちんこをする。

 平熱であるにも関わらずのごっちんこだ。そしてこの毎朝のごっちんこが、わたしを、穏やかな気持ちへと導いていくのだ。



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