「はい、山本さん。お入りください」
うすぼんやりと辺りが見えはじめる。
周りを見わたすと、たしかにあの忌々しい老婆だった。
機械のまえにちょこんと座り、「しっかりあててね」という看護師の声に、こんどはすなおに従っている。
「友だちのレンズを……」と、医師の指示をムシする小娘はとみれば、おう、こりゃかわいい娘さんだ。
年の頃、16、7歳あたりか。箸が転がってもおかしいという年頃だろう。
教室内では、キャッキャッと騒ぎたい年頃だろう。
ならば、許してやろうかな、おとなに反抗する時期ではあるのだし。
薄ぐらい部屋のなかから、お出でおいでと手招きする女医先生、まさしく女神さまだ。
まぶしかろうと灯りを落としていてくださる。
ありがたいご配慮だ。この部屋では、眩しさも感じない。
はっきりと女医先生を目にすることができた。
三十代後半だろうか。糊の利いた白衣が、じつに似合っている。
メリハリの利いた顔立ちで、聡明さがうかがい知れる。
たしかに、美人だ。
かかりつけ病院の医師が「あそこは、美人の女医さんですよ」と耳打ちをしてくれたが、嘘ではなかった。
だからといって、どうこうということはない。
ただ、医師から美人だという情報をもらったというだけだ。
やむなく行くのであって、女医目当てではないのだから。
それに、この近くに眼科はここしかない。
車でもあれば行けぬでもないところに、もうひとつあるにはある。
しかしわざわざ出向くこともなかろう。
よほどの名医ということであれば、そしてまたよほどの重症ということであれば別だけれども。
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