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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[青春群像]にあんちゃん ((20年前のことだ。))(八)

2025-04-06 08:00:57 | 物語り

 孝男の初恋は、あいての父親の転勤で告白すらできない片おもいにおわった。
高校の卒業を待たずに、転校してしまった。
むろん引っ越し先がわかるわけもなく、机のなかには出すあてのない手紙がたまりつづけた。
そのなかに、悲痛なおもいから書きこんだ3編の詩があった。

――・――・――・――
水たまりのなかの青空は 小さかった
ポチャンと投げた石ころに 
水たまりのなかの青空は 歪んだ。
    
渇いた愛 砂に吸われる水
       草木は 枯れていた
       枯れ木に 風が吹く

きょうの愛 あすには憎悪 かわいた愛
   激しい雷雨 外で遊ぶ子どもたち
            汗まみれ……


時の流れはいま 川となりました
銀の皿は流れるのです その上に空を乗せたまま
その夜 空は消えました その朝(あした)には太陽が消えました


吐く息の 凍りし窓辺 暖炉の火 
外には雪が 音のするなり

吐く息の 凍えし手にぞ 伝わりて 
恋しき想ひ なぜに届かぬ

身を縮め 凍てつく指に かけし息
勢ひあまりて 眼鏡ぞくもる
――・――・――・――

 成人式後の同窓会において、酒のまわった女性陣から声をかけられた。
「鈴木ほのかさん、覚えてる? あなたのことが気になってたみたいよ」
 たんなる酒席におけるざれごとなのか、どこまでが本当なのか判然としなかったが、孝男の思いにいっきに火が点いた。
消息をだれかれとなく聞くが、はっきりとした情報をもつ者はいなかった。
実家のあるこの地にいつかは戻ってくるさと、にやけた表情をみせながら言う者がいた。
からかい半分の情報かともおもったが、いちるの望みをもたないでもなかった。



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