昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十三) あたし、死神なの?

2014-03-23 12:57:39 | 小説
(一)

「武蔵、武蔵。どうして、どうしてなの? 
あたしがお姉さんと呼ぶ人は、どうして死んじゃうの?
 
あたし、ひょっとして死神なの? 
あたしが慕う人は、みんな死んじゃうの? 

武蔵、武蔵は大丈夫よね? 
あたしを残して死んじゃうなんて、そんなことしないよね? 

いやよ、いやよ、そんなの。
あたし、もう、耐えられない!」

激しく泣きじゃくる小夜子をしっかりと抱きしめながら
「大丈夫、大丈夫だぞ。俺は大丈夫だ。

小夜子を淋しがらせることはない。
小夜子を幸せにするために、俺はこの世に生まれてきたんだから。

前世からの約束事なんだよ。心配するな」
と、そっと耳元で囁いた。

“我ながら名文句じゃないか。
恋する男は詩人になるというけれど、ほんとうかもな”

己の言葉に酔う武蔵だったが、小夜子もまたその言葉に酔った。

「そうよね、そうよね。
武蔵はあたしを幸せにするために生まれたのよね。

そうだわ、きっと。
前世からの約束事なのよ。

きっと、前世では結ばれなかった二人なのよ。
哀しい恋の物語りだったんだわ。

神様が憐憫の情でもって、あたしに武蔵を引き合わせたのよね」

武蔵の胸の中で、母親にあやされる幼子のように、安らぐ小夜子だった。


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