そんな祭りの時期になると、決まって中学時代の友人をおもいだす。中学三年に進級してすぐのことだった。
ある事件をその友人がひきおこした。
うしろの黒板に、とつぜん五線譜を引き「クラスの歌」というタイトルのメロディを書きはじめた。
ざわつくこえも気にせず、いっきに書きあげた。
「みんな。これに、歌詞をつけてよ。みんなで歌おうよ。そ
れで、卒業後も同窓会のときなんかにさ、校歌といっしょに…」
「なんだよ、それ。許可、もらってんのかよ」
友人のこえをさえぎって、とがめる声がそこかしこから飛んだ。
「許可って、そんなの…。卒業したら、みんなわかれちゃうんだし。
良い思い出になればと思ってるんだ。このメロディが気に入らなきゃ、替え歌でも良いと思うんだ」
友人も引きさがらなかった。
結局のところこの事件は、担任の「良いんじゃないか」のひと言で、まくひきとなった。
そしてその後、女子の文字で歌詞が書きこまれたけれども、卒業にいたってもだれも歌うことはなかった。
もともと浮いた存在であった友人は完全に無視されるそんざいとなってしまい、その連れであるぼくは変人あつかいされる始末だった。
そんな友人との冒険談が、おもいだされた。
ふたりの中学時代の記念にと、お祭りにやってきたおりのことだっだ。
「そこのお兄ちゃんふたり。哀しいかなしい、へび女を見ていっておくれな。
それはそれは奥ぶかい山の中で生まれそだったむすめで~、食べる物にことかいたことから~、とうとうへびを食べるようになっちまいました~。
ある日猟師が~、とある山の、山中ふかくおしいって~」
その呼びごえがおもしろく、つい足をとめた。
その口上の出来いかんによって客足がちがらしいが、そのおりの呼びごえの主はそうとうに年季がはいっていた。
もう五十をこえた、頭が禿げあがりかけている赤ら顔の男だった。
その口から発せられるつぶれたしゃがれ声が、どことなく怠惰的な雰囲気をかもしだす。
いまにも倒れそうな、むしろでかこわれた小屋にみょうにあっていた。
ときとして男の口上が聞きとれなくなるのだが、それもまた興味心をあおりたてた。
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