昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ボク、みつけたよ! (五)

2021-10-02 08:00:49 | 物語り
 もう少し前段のようなものを聞いてください。
 小学生の折には、作文でよく褒められました。
昔々に「計画学習」という教材誌がありました。
団塊の世代の方ならば、ひょっとして覚えてらっしゃるかもしれませんね。
それに投稿した詩やら作文で賞を頂いたことがあります。

誰もが本人の体験談だと思いました。小学生なのですから、それが当然のことでしょう。
しかしそれが事実として書いたように見せかけて、実は作り話なのです。
実際には体験をしていない事象を、さも事実であったかの如くに書いたのです。
こう書けばきっと先生は喜んでくれる、大人は感心してくれる、そんな思いで書いていたのです。
忖度という言葉は、現在においてほぼ毎日のように新聞やらテレビのニュース番組で飛び交う言葉ですが、あの折のわたしにピッタリです。

 例えば小学三年か四年生のときに、一旦離れた伊万里市に戻りました。
銭湯からの帰り道にお寺の境内を横切ったという記憶があります。
お寺の塀を左手に見て、石畳の道を兄と二人で歩いた。
空には月が浮かんでいて、どこからか犬の遠吠えが聞こえてきた。
そんな光景が浮かびます。
どうしてここまで詳しく覚えているかといいますと、このときの情景を詩として書き上げたのです。
「風呂の帰り道」というタイトルで、「計画学習」という教材誌に応募して、佳作だったかをいただきました。
シャープペンシルが副賞で届いた覚えがあります。

 なので、はっきりと情景が浮かぶのです。
ですが、お寺の名前は覚えていませんし、その一角だけの記憶なのです。
申し訳ありません。正直に言いますと、今となっては本当のことだったかどうか、定かではありません。
風呂上がりに二人で帰った、これは事実だと思います。
ですが、お寺の境内で犬の遠吠えがあったかどうか、これは嘘かもしれません。
お寺と遠吠えの二つでもって、心の寂寥感を表現しようとしたのかもしれませんし。
あるいは事実だったかもしれません。

 ついでに自慢をさせてもらえれば、同じくその雑誌にて、今度は作文で賞をいただきました。
深く暗い井戸の底から、母親の声によって生還するといった内容です。
これは幼稚園児だったときに大変な交通事故に遇い、まさに生死の境を彷徨った折の経験が元になっています。
ですが、ごめんなさい。この井戸の底から……というのは、作り話です。
もう半世紀以上前、いえ60年以上前になりますかねえ。
ですので、決して「リング」の貞子さんのお話を借りたわけではないですから。
貞子? 貞子? 偶然と言うには恐ろしすぎます。
母の名前は、貞子です。



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