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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~(百四十三)

2021-10-05 08:00:55 | 物語り
“何て、こった。何てことを、この僕は、、、。ああ、小夜子さんに会わせる顔がない”
 顔面蒼白の正三だった。
激しい後悔の念に苛まれながら、頭を掻き毟った。
白いシーツの上に、正三の髪の毛が無数に落ちた。
床の中から、気だるそうに女が声を掛けてきた。
正三は、その言葉に弾かれたように立ち上がった。

「:34*;%&$#・・」
 女から発せられた言葉も、今の正三には異国語に聞こえた。
「放っといてくれ!」
 女の差し出すワイシャツを引ったくるようにして、正三は部屋を出た。
“小夜子さん、小夜子さん、、、ごめんなさい、、酔ってたんです、酔ってたんです、、”
 呪文のように、何度も何度も呟きながら、歩を進めた。

 その夜、正三は叔父である源之助の前で小さくなっていた。
背筋をピンと伸ばしての正座を余儀なくされていた。
「正三。今日、役所を欠勤んだそうだな。それも、無断欠勤だ」
「はい、申し訳ありません」
「まあ、いい。今さら怒っても仕方がない。二度としないことだな」
「はい、決して」
「で、どうだ? 昨夜は楽しかったか。三人で、どんちゃん騒ぎをしたそうじゃないか」

 身構える正三に対し、源之助は相好を崩していた。葉巻の煙をゆったりとくゆらせた。
「申し訳ありません、叔父さんのお名前を使わせていただきました」
 体を硬直させながら、ソファからから立ち上がって直立不動になった。
「構わんさ。いいことじゃないか、
うん。あの二人はな、これからお前の手足となって働いてくれるだろう。どんどん飲ませなさい。私の名前を使って、どんどん遊ばせなさい。
しかしだ、正三。お前は気を付けなくちゃいかんぞ。
酒もいい、女もいい。しっかり遊べ、飲め。しかし、飲まれちゃいかん。
酒で失敗した例は、多々あるんだ」
「はいっ、心致します」

 顔面が蒼白になった正三だった。“昨夜の女のこと、ばれているのだろうか?”と、気が気ではなかった。
「今、坊ちゃん と揶揄されているそうじゃないか。いやいや、責めているんじゃない。
むしろ褒めてやりたいぐらいだ。但し、だ。二人では行かん。少なすぎる。もっと増やせ。最低でも、五、六人は家来を作れ」
 一瞬、源之助に皮肉られていると感じた正三は、すぐさま直立不動の態勢をとった。
「申し訳ありません、叔父さん」


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