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昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[淫(あふれる想い)] 舟のない港  (一)まだ明けやらぬ朝もやの中、

2024-11-22 08:00:53 | 物語り

二十代前半に構想して書き上げた作品です。
アダルト系だったものを、抑え気味に書き直してみました。

時代は、昭和の…そうですねえ。
四十年代の中頃、いざなぎ景気が終わりとなった頃のお話です。

同期の先陣を走っていた男が、ひとつのミスで転落していく様と、
交際中だった女性との別れがおとずれ、新たな恋に走りはしたものの…

麗子とミドリ…
頭を空っぽにして、どうぞふたりの女性をみてくださいな。
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 まだ明けやらぬ朝もやの中、プライドの高さをそのうす汚れた白っぽいトレンチコートにほのめかせ、三十路もなかばの男が足早に歩いている。
街灯の下でタバコに火をつけた。
険しかった表情もタバコを吸い込むたびにほぐれてくる。
ひとつひとつのビルを確かめ、頷きながら歩いている。
 ビル街には、カツーン・カツーンと響く男の靴音以外に物音ひとつしなかった。
ヒシヒシと押しよせる孤独感は、否応なしに男をさいなめた。
きょうは月曜日。
間もなくこのビル街の活動がはじまる。
足早に行きかうビジネスマンたちは、まだ集まりはしない。
が、あと2時間もすればこのビル街が生命ちを吹き返すだろう。
すこし前には、肩で風を切るビジネスマンとして闊歩した男だった。
 男は大通りを横切るとキョロキョロと辺りを見まわした。
落ち着かない仕種でタバコを投げすてると、せまい路地を右に左にと通りぬけ、べつの大通りに出た。
その左に方向をとると、その先に駅を見つけた。
冷たい朝もやをつんざくように、鋭く汽笛がなりひびく。
腕時計に目をやったが、いつの間にか止まっていた。
"チッ!"と舌打ちをしながら、しだいに焦点があってくる駅舎の壁に埋めこまれている時計に目をやった。
5時37分を指している。
 新しいタバコに火をつけると、足早に駅にむかった。
新聞配達やら牛乳配達の自転車の音がしてきた。
男は急にのどの渇きをおぼえた。
といって、まだ開いている店はない。
遠ざかる牛乳瓶のこすれ合う音を耳にしつつ、駅にたどり着いた。
とりあえず、待合室の長椅子に腰をおろした。
始発列車は、6時47分だった。
「まだ、1時間以上あるのか」
 男の口から愚痴がこぼれた。
「とにかく急ごう。間に合ってくれればいいが‥」

 



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