(三十六)
お待たせしました。
ベルサイユ宮殿は、パリの郊外にあるんですね。
どの位でしたかね、時間は。結構、乗ってましたね。
高速道路を走った筈です。
近付くにつれて車線数が少なくなり、高速道路には感じられなくなった気がします。
市街地の喧噪から離れて、田舎町の風情が漂ってきました。
高速から下りると、道幅が広くて街路樹がたくさんでした。
この道を、あのマリー・アントワネット王妃を乗せた馬車が走ったのでしょうね。
名古屋の街でもそこかしこでお目にかかりますが、歩道と車道の間に、第二の車道とでも言うべきゾーンが造ってありました。
もうすぐです、もうすぐに、アントワネット王妃が住まわれていたベルサイユ宮殿に着くのですよ。
アントワネット妃が歩かれたであろう広々とした庭園を、このわたしも散策できるのです。
大きな駐車場でした。たくさんの大型バスが並んでいます。
何か目印がないと、とてものことに迷子になりそうです。
さあ、行きましょう。あの、素晴らしくどでかい宮殿へ。
正面だと思いますよ。
わたしが知らなかった歴史を、皆さんも知らなかったとして、聞いて下さいよ。
そのくらいの寛大なお心はお持ちだと、信じていますからね。
ルイ13世によって、狩猟の館として建造されたのが始まりだとか。
ルーブル宮殿とベルサイユ宮殿とを比較したルイ14世が、ルーブルの改修工事規模を縮小して、ベルサイユ宮殿を大々的に増築したとか。
ベルサイユの地には、水を引く高地が近くにないらしいです。
そこでルイ14世は10km離れたセーヌ川から、古代ローマに倣って水道橋を作りあげたということです。
そうやって水をベルサイユまで運び込み、巨大な貯水槽に溜め込んだのです。
そして苦労に苦労を重ねて、水を噴き上げる噴水庭園を完成させました。
当時の農民たち、びっくりしたことでしょうね。
その水って、農民たちにも、農地用にと分け与えていますかね?
その辺のこと、聞いて良いのかどうか迷っている内に、ガイドさんさっさと中へ。
ま、ガイドさんといえども知らないこともあるでしょう、さ。
そうそう、中に入る前に、またあの言葉が。
「ここでも物売りがいます。欲しい人は良いですが、できれば避けた方がいいですね」
どうなんでしょう、忌避すべき者とみるべきでしょうか。
まあ、正規の仕事ではないですよね。
わたしにしても買う気はありはせんし、見ていて良い気はしません。
というより、居て欲しくないです。
「そんなことにエネルギーを使えるなら、まともな仕事に就け!」
でも、就けないからの仕事(じゃなかった、)物売りなんでしょうね。
擁護するつもりはありません、ありませんが……
社会の在り方にも、一考の余地があるのでは…と考えた次第です。
さあさあ、ガイドさんに先導されて、入場ですよ。
鉄柵の中央が、門として開放されています。
建物外なら、無料ということでしょうかね。
そういえば、ルイ14世も、村人たちに解放していたと聞きますし。
ちょっ、ちょっと待った! なんですか、この入り口は。
ほんとに、ほんとの入り口なの?
木造校舎の廊下を歩いているような錯覚に陥りましたよ。
トイレにでも連れて行くの? とも。
どうにも、豪華絢爛なベルサイユ宮殿の入り口とは思えないです。
強いて言えば、裏口も裏口。囚人の出入り口では? なんてね。
それとも、記憶違い?
そう言えば、大理石の階段を下りたような上ったような……
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