(八)満月
店をとびだした少年は「こんなはずじゃなかった!」と、自戒の念もこめてつぶやいた。
あこがれにも似た感情だった。
未知なる、大人の女性への好奇心もあった。
おさなくして母親を亡くした少年には、異性が身近にいない。
ましてや、ネクラといわれる性格の故に、女ともだちもいない。
下卑たわらいい声をあげているクラスメートの輪にも、はいれない。
遠目に見るだけの少年だ。
しかし不良のたまり場とされるあの店に行けば、異性とでも話をできる、そう思いこんだ。
話をーどんなはなしを…?
逡巡していたときの、思いもかけぬ女からのことばに、ただただ混乱するだけだった。
17歳 ―― Rolling Age 。
翌日の夕方、Go-Go-Snackの店先で、ひとりのフーテンむすめが焼身自殺をとげた。
遺書のないこの事件は、世界各地でひんぱつしていた「ベトナム戦争への抗議の自殺」と同列にあつかわれ、こぞってテレビで報道された。
しろい埃だらけのこの舗道を、笑いながらしかし涙をながす少年が歩いていたのは、この事件が報道された夜ふけのことだった。
月は、満月だった。
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