昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[ブルーの住人]第三章:蒼い恋慕 ~ブルー・ふらぁめんこ~

2023-09-09 08:00:57 | 物語り

(八)満月

 店をとびだした少年は「こんなはずじゃなかった!」と、自戒の念もこめてつぶやいた。

 あこがれにも似た感情だった。
 未知なる、大人の女性への好奇心もあった。
 おさなくして母親を亡くした少年には、異性が身近にいない。
 ましてや、ネクラといわれる性格の故に、女ともだちもいない。

 下卑たわらいい声をあげているクラスメートの輪にも、はいれない。
遠目に見るだけの少年だ。
しかし不良のたまり場とされるあの店に行けば、異性とでも話をできる、そう思いこんだ。

 話をーどんなはなしを…?  
 逡巡していたときの、思いもかけぬ女からのことばに、ただただ混乱するだけだった。

 17歳 ―― Rolling Age 。

 翌日の夕方、Go-Go-Snackの店先で、ひとりのフーテンむすめが焼身自殺をとげた。
遺書のないこの事件は、世界各地でひんぱつしていた「ベトナム戦争への抗議の自殺」と同列にあつかわれ、こぞってテレビで報道された。
 
 しろい埃だらけのこの舗道を、笑いながらしかし涙をながす少年が歩いていたのは、この事件が報道された夜ふけのことだった。
 月は、満月だった。 



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