昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

キテレツ [ブルーの住人] 蒼い瞳 ~ブルー・ぼーん~ 

2023-01-21 08:00:47 | 物語り

(二)老婆

 この老婆、実は帰る家を失くしています。
あの大地震の折に、老婆だけでなく大半の家々が全半壊しています。
しかしめげることなく、村人総出で互いの家の修復を行いました。
そして老婆の家の修復に入ることになりました。
その折でございます。

「お婆さん一人では暮らしが成り立つまい。 わしの所で面倒を見ようじゃないか」
 村の世話役が、申し出ました。
世話役と申しますのは、もめ事の仲裁役でした。
といって、裁判官の役ではありません。
あくまで互いの話を聞いて、それを互いの相手に伝える役でした。
当事者という者は興奮状態にあるから、己では冷静なつもりでも道理が通じないことがあるということです。

 それですんなりと話がまとまるかと思われたのですが、今回はどういうわけか……。
と言いますのも、過去においてひどい伝染病が流行った折りに、やはり一人お爺さんが残されました。
で、当時の世話役が面倒を見ることになりました。
そのお爺さんは天命を全うされたということです。
ですのでそれにならって、ということだったのですが。

「いやいや、世話役さん。わしの所は、かかあと後家娘の三人暮らしじゃ。わしの所に来てもらいますわ」
と、辰三なる村人が声をあげたそうです。
さあそれから、「わたしの所は年寄りが居ないから」「話し相手がおらんでは淋しかろうに」と、かまびすしいことに。

(三)大義名分

 老婆の家の修復は見送られました。
ひとり寝の状態では、いつなんどきに旅立つことになるやもしれません。
そのような人でなしなことはできぬと、村人の間で大論争が起きたのです。
と言いましても、賛否の議論が起きたと言うことではなく、どうやって老婆の面倒をみるかという方法論でもめたのでございます。
 結局のところ、他人を交えての食事を禁じた風習が、この老婆に関しては破られることになったのです。
「お婆さんは、村全体の身内じゃから」というのが、その大義名分でした。

 こう申してはなんですが、実のところ、村人たちは老婆を歓待しているのではないのです。
老婆にまつわる噂で、歓待しているのです。ですが信憑性のある噂ではありません。
むしろまゆつば物と考えた方が、良さそうです。
 いつからその噂が広まったのか、分かりません。
誰が言い出したのか、それすら定かではありません。
しかし確かなことは、半信半疑ながらも村人全てが、この噂を信じていることです。

 がしかし、一割でも二割でもそれが真実のことなら……。
 あなたならどうします? 
 噂だからと打ち捨てられますか?


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