昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

歴史異聞  第一章 『 我が名は、ムサシなり!』 (五)寺での修行

2020-05-16 08:00:16 | 小説
 小坊主の殆どが商家の出であり、次男三男が多かった。
わがままの許される家から戒律の厳しい寺へ移り、嘆き悲しむ日々を送っている。
もしも実家に逃げ帰ろうものなら、己は勿論のこと、親兄弟、果ては親族たちのことまで非難の対象となってしまう。
そんな彼らに対して、ごんすけが吠えた。
「子をすてるおやなんていねえ! 
おやをすてる子はいるかもしれねえが……」

 自戒の念を込めてのごんすけの言葉に、沢庵和尚が手を打って小坊主たちに説き始めた。
「よう言うた! その通りじゃ。
みなそれぞれに親がある。
されど、憎うてこの寺へ入れたのではないぞ。
お前たちの先行きを案じての事じゃ。
それぞれに事情は違うけれども、よくよく胸に手を当てて考えてみよ。
今のお前たちならば、当時の親の心が分かろうというものじゃ」

「こんな言葉を知っておるかのお。
『寵愛昂じて尼になす』
これはのお、娘かわいさの余りに嫁に出すことができず、とうとう尼さんにしてしもうたということでの。
かわいがりすぎては子のためにならぬと言うことじゃ。
そして『兄弟は他人の始まり』とも言う。
親の存命中は良いけれども、死んだ後になって諍うことになってしもうてはということでの。
まあ、お前たちの殆どがやんちゃ坊主じゃからというのが、大方のことであろうがの」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿