昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛・地獄変 [父娘の哀情物語り] (四十四)

2010-12-27 22:23:15 | 小説
アハ、アハ、
アハハハ。
どうして妻の為に、
涙を流さねばならぬのでございましょう。
どうして妻の顔が、
あれ程に私めを貶めた、
妻の顔が・・・。

「トントン」と
ドアを叩く音がしました。
「誰だネ?」
と聞く間もなく、
娘が入って参りました。
ピンクのカーディガンを
羽織っております。
二十歳の誕生祝いにと、
私が選んでやったものでございます。

娘はドアに鍵を掛けると、
私の横に座り
「お父さん!」と、
声にならない涙声で
小さく呟きました。
私は、
溢れ出る涙を隠そうと、
そろそろ雪解けの始まった街路を見るべく窓際に立ちました。
夕陽も落ちて、
薄暗くなり始めていました。

「まだまだ、
寒いなあ。」
そう呟くと、
カーテンを引いて
外界との交わりを断ちました。
涙を見られたくなかったのでございます。
「お父さん・・・」
私の傍らに来て、
娘が又呟きます。
「うん、うん。」と、
娘の肩に手をおいて頷きました。
娘は、
何とか笑顔を見せようとするのですが、
涙を止めることができずにいました。
私はそのいぢらしさに、
心底愛おしく思えました。


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