昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

原木 文通 ~ハイネ「抒情的間奏曲」より

2024-03-21 08:00:18 | 物語り

ーあぁ美しい五月の月
   芽という芽が萌え出たとき
 僕の心にも
 恋が萌え出たー。 
・・・・・・・・・・・・・・

拝啓 
最近は暖かい風が吹いてきました。それにつけても、僕の心を痛めていることが一つあります。
それは、君の足がどんなに太ったことだろうか? ということです。
餅の食い過ぎで、なんてことは言わせないゾ。
マ、どんなに太っても、桜島大根にはならないでね、大根足。(これは失礼)。

 君の写真を見るといつもそう思うんだ。
今度送ってくれる写真は、上半身だけにしてネ。
そうでないと、僕、僕、…………
(泣いてると思うだろう。 
ところが、笑いたいのをじっとこらえてるんだ。
ククク……。ごめんね、そんなに泣かないでよ)。

そうだ、君にプレゼントがあるんだ。
年賀状も出さなかった、僕の罪をお許しください。
貧乏な僕からの、ささやかなプレゼントを受け取ってくれるネ。
ありがとう、そんなに喜んでくれなくてもいいよ。
泣いてまでして喜ぶ必要はないさ、さあ笑って。

さあ、送ったよ、”君に涙と微笑みを”!
ゴメンネ、僕にはこんなものしか、君に送ることができないんだ。

ところで、僕の所にたくさんの激励の手紙が届きました。
本当にありがたいと思った。
クラス仲間というものは、友人というものはいいなあ、って。
ほんと、心底思った。
さあ、夜も更けてきた。少し眠くなってきちゃった。
じゃ、君の手紙の夢を……。       
おやすみなさい。 
 

拝復
素敵なプレゼントをありがとう。大事にしまっておきます。
それから、これからの写真は全部上半身にしますから、ご心配なく。

でも、ショックだったわよ。いくらなんでも、私の足が桜島級の大根だなんて。
守口漬けの方よ。(ウフフ)

激励の手紙、良かったですね。私にも少し分けてほしいわ。
でも、男の人はいいわネ。
その点、女同士の間では、どうしても友情というようなものは育たないの。
どうしてかしら、利己主義からかしら、悲しいわ。
男同士の友情、いいわネ、羨ましいわ。
私も女でなく、男に生まれたかった。

でも、女と生まれたからには仕方ないわ。狭い世界で生きることにしました。

 私、こんなことあなたに言っていいかどうかわからないけど、手紙だけじゃ物足りないというか、スッキリしない。
私があなたに嘘を言っても、あなたが私に嘘を書いていて…、ごめんなさい。
でも、同じ県内にいてお互いを見たことがないなんて、何となく変だと思うわ。
それに、もうこれで三年目かしら。私、耐えられなくなったの。
本当のことを、言おう言おうと思って。
でも、手紙ではだめなの。会ってくださる?
 
あなたからの返事を待ちます。 
 
---
とうとう私、告白するのね。今まで、貧乏な家庭だって偽ってきたことを。
だって、あの方が貧乏で、私の家が裕福だと知ったら、町の有力者の娘だと知ったら、きっとあの方は私から去って行くわ。
 私、味方がほしいの、心底からの。
いま、お付き合いしている人達は、私とではなく、父の娘の私だわ。
そんな薄っぺらの交際なんて嫌。本当のお友達がほしいの。

でも、あの方、何とおっしゃるかしら
。素直に受け止めていただけるかしら。
あ3、心配だわ。でも、いいわ。
これははっきりさせなければいけないことだから。 
  

拝啓
いつもの君らしくない手紙、少し心配になりすぐペンをとりました。
何やら悩んでいるようですね。何に耐えられないのですか? 是非話して欲しい。

実を言うと、この僕も君に重大なことを隠している。
或いは、君にはそれ程重大ではないかもしれないけれど。
僕にとっては、重大なことです。
この三年間、僕はひたすらに隠し続けました。
時折、良心の呵責に耐えられず、話してしまおうかとも思うのですが、どうしても手紙を破ってしまいました。

正直なところ、僕は、君に会うのが怖い。
ゴメンネ。勿論、自分の秘密を知られることもありますが、他に大きな理由があります。

僕の君に抱いている、淡い初恋のような清々しい感情の灯りが、君に会うことによって、いや、僕の言葉でそれが壊れるような気がする。

君には、清い美しい感情を持ち続けていたい。
だから、お互いの秘密を明かすことなく、会うこともなく、この関係を続けて行きたい、僕はそう願っています。 
 
---
きっと僕は言う。そして、他の誰もと同じようにするだろう。
僕の付き合っている、上流階級の極道者らと同じような言葉を吐き、又遊ぶだろう。
いやだ、いやだ、俺はもう疲れた。もっと人間らしい感情を持ちたい。 


 
・・・・・・・・・・・・
ーお前の胸にもたれていると、
  この世ならぬ歓びにおそわれる。
   だが、
  「あなたが好きなの。」と言われると
  はげしく僕は泣いてしまう。



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