「仕事に関しては、たしかに厳しいけどさ。でも、みんな、大好きなんだ。
人情味にあふれてる社長で、どこまでもついて行くぞ! って感じなんだ。
実は、社長が結婚されると聞いたときには、不満の声が上がったんだよ。
社長に見合う女性は、そんじょそこらにはいない! って。
それこそ、人気スターじゃなければ釣り合わないって。
でも、小夜子奥さまを見たとたんに、みんな大喜びしました。
小夜子奥さまなら許せるって。みんな、そう思ったんです」
母親の不安げな顔に、満面の笑みを見せながら竹田が宣した。
「あらあら、急にどうしたの。あたしを持ち上げても、なにも良いことはないわよ。なにも出ないわよ」
「そんなことないのよ、小夜子さん。勝利は、ほんとに小夜子さんが好きみたいで。
初お目見えの夜なんか、そりゃもう口から泡を飛ばす勢いで、熱弁をふるったんだから。
あんなことって、初めてなんだから。あたしにね、まったくといっていい程、口をはさませなかったんだから」
「姉さん、やめてくれよ。あのときは興奮してたんだ。
みんなで大騒ぎして、その余韻が冷めなかったんだから」
「それだけじゃないでしょ?
その後だって、小夜子さんが会社にお見えになった日なんか、病院で自慢してたじゃないの。
もっとも、あたしもそうだけどね」
顔を真っ赤にしてうつむく竹田が、その純さが、小夜子にはまぶしく映っている。
「ありがとう。みんながあたしを歓迎してくれたことは、すごく嬉しかった。
みなさんに、喜んでいたと伝えてね。
あたしも、たぶん会社のお手伝いをすることになると思うけれど、そのときはよろしくって伝えておいて。
ちょっと不安もあるけれど、精一杯がんばるから」
言葉とは裏腹に、目をらんらんと輝かせる小夜子だった。
どんな仕事に従事するのかは武蔵の口から出たことはない。
しかし英会話学校での成果をいかんなく発揮できる部署であることはちがいないはずだ、と確信している。
通いはじめの頃の小夜子とちがい、今では堂々と教師とも渡り合っている。
もう大丈夫! と、胸をはる小夜子だ。
「大丈夫ですよ、小夜子奥さま。社外的なことに従事していただくことになると思います」
「竹田は、知ってるの?」
「僕だけじゃありません、みんな知っていますよ」
己の知らぬことを、竹田が知っている。五平ならばいざ知らず、雇われ人である竹田が知っている。
いや社員全員が知っている。プライドを傷付けられた思いが、小夜子の胸にチクリと突き刺さった。
「武蔵ったら! 当人のあたしには何も言わないのに」
「ち、違います、小夜子奥さま」
目をキッとつり上げて、明らかに不満げな表情を見せる小夜子に、あわてて、竹田が事の説明をはじめた。
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