昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (百八十二)

2022-01-11 08:00:43 | 物語り

「おう、昨日はご苦労だったな。それでどうだった?」
「安心してください。無事、入院ですわ。おふくろさんも、今回ばかりは観念したようですわ」と、合掌の真似をする五平だ。
「うん、そうか」。満足げに頷く武蔵に「なにせ、本性を現しましたから」と意味ありげに薄笑いを浮かべた。
「どういうことだ?」
「見張りが居たんでしょう。三人連れの恐いお兄さんを引き連れての、ご登場でした。さすがにおふくろさんも、ビックリですわ」
「ほう、やっぱりだったか。でっ?」
「でって、そんなもの。何という事はないです。ギャーギャー騒いでましたが、一喝して終りですわ。あの親分さんの名前を出す必要もなかったです」
「なんだ、そりゃ。素人さんか?」
「そこらの食いっぱぐれですわ。ニ、三日前に雇われたようです。祈祷師やら占い師やら、結構有名になっていましてね」
「どういうことだ、それは」
「入れ替わり立ち代りの状態になっていました。一つ二つどころか、二桁に迫る状態です。驚きましたよ、まったく」
「そんなにか! 食い物にされていたんだな。もっと早くに相談すればいいものを、竹田の奴」
 眉間に皺を寄せて歯がゆがる武蔵に、五平も相槌を打つ。
「まったくです、残念です。あたしもうかつでした。机の前でぼんやりとしている竹田を見はしたのですが、まさかこんなこととは。思いも寄りませんでした」

「竹田の奴、大はしゃぎでした。帰りの車の中で、喋ること喋ること。初めてですよ、あんな竹田を見るのは」
「そうか、そんなに喜んだか」
「いや、違いますぜ。勘違いなすってる」
「勘違いって、お前。どういう意味だ」
「小夜子奥さんですよ、奥さん」
 ニタニタとする五平に、「小夜子がなんだ! 惚れたっていうのか、竹田が」と、とたんに不機嫌になった。
「へへへ。ちょっと意味が違いますが、ぞっこんですわ」
「許さんぞ、そんなこと。竹田を呼べ、怒鳴りつけてやる」
 気色ばんだ武蔵を、まだニタニタと五平が笑っている。
「看病するって、言われたでしょう? 小夜子奥さん」
「ああ、そんなことも言っていたな」
「それですよ。それに感動してるんですよ」
 それがどうした、と言わんばかりに、眉間に皺を寄せたままの武蔵。相変わらずニタニタとする五平。
「五平! いい加減にそのにやけ顔をやめろ! イライラするぞ」
「これは、申し訳ありません。社長のヤキモチなんて、ついぞありませんからな。いや、失言でした。竹田の横恋慕とか言うのじゃなくて、純粋な気持ちですから」
「なんだ、その純粋ってのは。少年みたいな、とでも言うのか!」
 椅子に座ったり立ったり、机の周りを歩いたりと、まるで落ち着かない。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿