昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[舟のない港] (五十九)

2016-06-15 22:09:26 | 小説
辛い毎日だった。
炎天下の下、足を棒にしてスーパー・商店を回った。

一つの契約高が 数万円の仕事を取ることに、何度頭を下げただろうか。
急ぎの納品だと、まだ明けやらぬ早朝にチラシを届けたりもした。

夜になると、疲れ果てて泥のように眠りこけた。
ミドリは、相変わらずやって来た。

しかし、男の帰りが遅いことが多くすれ違いの日々が続いた。
そんなある夜、帰りが午前零時を回ってしまった。
鍵のかかっていないドアに驚きながら、かけ忘れたのかと部屋に入った。

暗闇の中にミドリが居た。
月明かりで、辛うじてミドリだとわかった。

ミドリは、男の胸に飛び込むと、火がついたように泣きじゃくった。
こんな遅くまで男を待ち続け、泣きじゃくるミドリは初めてだった。



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