昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十三)早苗からの手紙

2015-05-16 12:34:06 | 小説
たけしお兄ちゃんへ。
お元気のことと思います。
気になることがあり、お手紙を出します。
おばさんのことで、悪い噂が立っています。
たけしお兄ちゃんがそちらに戻られた翌月から、毎月男の方がおばさんを訪ねてみえます。
それは良いのですが、気になるのは泊まっていかれることです。
すぐにも帰ってきてください。早苗、心配なんです。
それでは、お体に気をつけてください。                             
                        早苗より

早苗からの手紙は、信じられない文面だった。
〝まさか、お母さんに限って!何かの間違いだ、きっと〟
突然、牧子の言葉が思い出された。
「女盛りの母も、淋しかったのよ」
「当たり前だよ、そんなこと。母親といえども、女性なんだから」
と答えた彼だったが、己の母親のこととなると
「親戚さ、きっと。そうに決まってるさ。
お母さんに限って、そんなこと‥‥」と、打ち消す彼だった。

「大体、何で早苗が気にするんだ!」
無性に、早苗に対し腹が立った。
知りたくない母親の一面を告げる早苗に、怒りがこみ上げてきた。
こんなもの! とゴミ箱に放り投げ、ベッドに横たわった。

「毎月だ? いや、親戚さ。早苗の知らない叔父さんさ。
死んだ父さんの、兄弟さ。そうに決まってる」
しかしいくら考えても、父の兄弟の顔が浮かばない。
父親の葬式にも、誰も訪ねては来なかった。

仕事関係ばかりで、父方の親戚なる者は来なかったような気がした。
「いや、そうじゃない。僕の知らないところで、お母さんに挨拶していたんだ。きっと、そうさ」
口にすることで、自身の身体から邪念を追い出すことで、何とか平静を保とうとした。

早苗からの手紙が気にはなったが、家庭教師のバイトを休むわけにもいかず、そのままにしていた。
実のところは、事の真相を確かめるのが恐い彼だった。
打ち消してはみたものの、牧子の言葉が頭から離れなかった。

「女盛りの母も、淋しかったのよ」
お母さんに限って、そんなことはさ。早苗の誤解に決まってる。
毎夜、一人になるとそんな思いにかられていた。
そんな悶々とした日々を送っていた彼に、一通の葉書が届いた。

=御手洗君へ。
 サークル活動の件で、連絡事項があります。葉書が届き次第、電話してください。       

                                    耀子


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