昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

恨みます (四)

2022-05-07 08:00:40 | 物語り

 夜の九時を回ってからの月に一度の営業会議が、月始めに行われる。
先月の売り上げ成績がホワイトボードに書き込まれて、成績上位3人には中身は千円と少ない金一封が手渡される。
さらに、トップとなった者には別のご褒美が待っている。
翌月から3ヶ月間、給料がアップされることになっている。
毎月しのぎを削るのだが、猫の目のように入れ替わっている。

「今日も、暑くなんのか。汗だらけになっちまうのか? あ~あ、外回りは辛いぜ」
 女性天気予報士への八つ当たりで、少しは気が晴れてきた一樹だった。
「今月のバイは、ちょっとヤバイしな。地獄の反省なんざやらされた日にゃ、泣けてくるぜ」
「けど、森尾のおっさん、よくやるよ。毎月毎月、地獄の反省をやらされて。
みんなにバカにされて。それでも、辞めなくて。
まあな、一発当てれば、でっかく稼げるしなあ」
地獄の反省では、社員一人一人に対して土下座して謝らねばならない。
そして「バカ! アホ!」と罵られるのだ。

「くそお。俺も、健二さんみたいに月収二百万もらいてえよ」
 完全歩合制の給料体系をとる、健康促進株式会社だ。
設立一年半の会社で、一樹は九ヶ月前に入社した一番の若手だ。
一樹が慕う沢木は創立者の一員で、肩書きとしては専務取締役となっている。
「バイの二割だかんな、健二さんの場合は四割か。大っきいよなあ、ランクが特Aだもん。
一組三十万の羽毛布団に、五十万のマッサージチェア、そして二十万の浄水器。
三種の神器を、バンバンとバイしてるらしいもんなあ」

 扱い商品は、すべて名の通った一流品だ。但し、値段が高い。
付加サービスが売り物のこの商売がいつまで続くことやら。
「さあて、行くか。っと、もう七時半ジャンか! 
ヤバイよ、こりや。遅刻しちまうぞ、ハリィアップ、ハリィアップ!」
 駅まで走る羽目になってしまった。
普段なら十時出社でOKなのに、当番の今日は九時には着かなければならない。

遅刻は厳禁だ。
理由の如何を問わず、地獄の反省をさせられる。
ならばと欠勤を決め込んだ猛者がいたが、1日1万円の罰金をとられ、地獄の反省もさせられた。
以来、誰ひとりとして遅刻をする者はいなくなった。



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