昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ごめんね……(問屋街の二) 

2023-04-30 08:00:20 | 物語り

 ぼくの仕事は、それらの個人商店やら会社相手に梱包材類をとどけることだった。
そんな会社のひとつに株式会社益田商店があり、取引先としては大口の部類にはいる。
ここには毎日梱包材類をとどけにいくのだが、二日ないし三日分をまとめて注文してくれればいいのにと、つい同僚にこぼしたことがある。
しかし「毎日の配達になったのは、うちの会社都合だ。
よそに入り込まられないようにって、担当者がお願いしたんだ」と、先輩社員に叱られた。
小回りをきかせるということらしい。そういえば、午前と午後とに配達をしたことがある。

 株式会社増田商店は、多々ある繊維街の中でも名のとおった中央繊維街の入り口角にある。
地の利の良さからだと揶揄されるけれども、この辺りでは一、二を争う売上高をほこっている店だ。
社員はみな横柄な口の利き方で、我々配達員は人間あつかいしてもらえない。

 大通りをはさんだ向かい側の入り口に、この界隈で一軒だけの喫茶店がある。
商談後のブレイクタイムに重宝されている。
つい先日のこと、社長の娘である企画課長の麗子さんに「お茶しましょ」とさそわれた。
なにごとかと身構えたけれども、予定していた相手の都合が悪くなったための時間つぶしの相手にされたということだ。

 年齢は確か三十になったばかりだと聞いている。
担当の営業に言わせると二十代前半に見せているのだとか。
広告塔の役目があるのだそうだ。たしかにスタイルは良い。
背は165センチぐらいかな? ぼくの背丈と同じぐらいだから。
待てまて、ハイヒールをはいてるんだ。その分を引かなくちゃ。
ただ、顔がちっちゃくて、首が長いんだよな。ぼくがつけた、ぼくだけのあだ名は「キリンさん」だ。

 もちろん誰にもいっていない。「そのまんまじゃねえか!」とか「センスねえなあ」とか言われそうだし。
どころか、担当営業マンにばれたら、ぜったいに大目玉をくらうに決まってる。
いつもゆったりとしたワンピースが多いのは、ひょっとして太ってる? と思ったんだけど、先輩にいわせるとファッションモデルでもやれるスタイルの良さだという話なんだけど。
まだ独身で見合いをくり返すものの、なかなかお眼鏡にかなう相手が見つからないということだ。
ボーイフレンドは何人かいるらしいが、あくまで遊び相手ということらしい。
担当営業マンから「気むずかしいところがある女性だから気をつけてくれ」と、しつこく言われている。



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