(九)
外で荷解きをしていた男たちも呼ばれて、大騒ぎとなった。
「お姫さまがね、竹田さんのお姉さんの看病をされるんだって。
社長は渋ってらしたけど、根負けされたわよ。
すごいわねえ、社長をやりこめるなんて。」
「えぇー、ほんとなの?
一社員の家族の為に、そこまでしてくださるなんて。
信じられないわ、あたし。」
「うわー。
あたしん家も、誰か大病しないかしら?」
「痛てて…腹が痛い! これ、きっと盲腸だぜ。」
腹を押さえるひょうきん者。
隣の若者が、
「バカったれ! バレバレだぞ、そんなの。」
と、笑い飛ばした。
「それ、ほんとか? 困るぞ、そんなの。
母が付き添ってるんだ、それを奥さまにまで。」
遠巻きから聞いていた竹田、慌てて二階へ駆け上がった。
「おう、竹田。
丁度良いところに来た。
小夜子を病院に送り届けてくれ。」
(十)
「社長、そんな。
ぼく、困ります。
小夜子奥さま、おやめください。
そのお気持ちだけで、十分です。
昨日だって、色々とお世話頂いて…。
それに万が一のことがあったら、ぼく死んでもお詫びできません。」
懇願する竹田に
「だめ! 看病するの。
あなたの為じゃないの、お姉さんの為でもないの。
あたしの為なの、これはあたしの勤めなの。」
と、強く言い放った。
“ひょっとして、小夜子の奴。
お母さんが、と言いはしたが。
ほんとのところは、あのロシア娘か?
あのロシア娘に対する罪滅ぼしではないだろうが、何にもできなかった自分を…。
そうか、自分を納得させる為でもあるのか。”
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