Tomotubby’s Travel Blog

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「千代取り岩」伝説

2009-12-08 | Japan 日常生活の冒険
ロジェ・カイヨワ・著「蛸」の翻訳者・塚崎幹夫による訳注の中に、日間賀島に伝わる興味深い伝説が補遺として載せられていた。以下に抜粋:-

豊浜墓所の海の千代取り岩についての言い伝え--

昔、須佐の荒磯松の近くの苫屋に、千代という若い娘が母親と二人で住んでいた。千代は愛らしい美人で、土地の若者たちの憧れの的であった。春の引潮に、千代は沖の岩まで出かけて海草や貝を獲っていた。そのとき、何かが千代の足に絡んだと思うと、忽ち白い腿の上まで延びてきた。大きな大きな蛸であった。千代は抱きつかれてもがいたが、夢中になって振り回した鎌が当たって、蛸の足が一本切れた。蛸は驚いて岩の陰に逃げ、千代は助かった。この足は、太さが千代の白い腿ほどもあって、千代の籠に入りきらないほどであった。

翌日、千代が昨日のところまで行くと、同じ大きな蛸がいた。千代が赤い腰巻から白い腿を出して誘うと、蛸は足を延ばして、千代に抱きつこうとした。千代は構えた鎌で素早くこの足を切り取って、その日の獲物とした。

翌日も同じところへ行ったが、このときは蛸はもういなかった。15日過ぎて、また同じ岩のところへ行くと、蛸は彼女を待つかのようであった。千代はこのとき、蛸の足をさらに三本切った。蛸の足はあと三本しか残らなくなった。春が過ぎて、初夏になった。麦の黄色の穂の上を爽やかな風が渡っていった。千代が同じ渚に出て蛸を探していると、蛸が出てきた。千代はまた同じようにして、足を一本切り取って家へ持って帰った。次の日も千代は蛸のところへ出かけていった。千代は残る二本の足の一本を、これまでと同じようにうまく切った。しかし、蛸は最後の足を彼女の白い腿から腰に絡ませ、千代の顔に黒い墨を吐いて目潰しを喰わせると、そのまま千代を海の中に抱き込んでしまった。

お千代はこうして、折角の娘盛りを男に抱かれることなく、蛸に抱かれて海に沈んでしまった。母親は渚を駆け回って、「お千代、お千代」と叫び続けた。村の若者たちも、お千代を失って悲しみに暮れた。しかし、千代取り岩には、ただ波が寄せたり返したりするだけであった。


最後だけ「千代」が「お千代」になっているのはご愛嬌として、この伝説は、男を手玉に取って金品を巻き上げる(場合によっては殺してしまう)昨今の結婚詐欺師の予備軍を諌める教訓話のようにも思える。抜粋には述べられてはいないが、千代の母親は病気で、母親に精をつけさせるため危険を冒して大蛸の足を持ち帰る千代は孝行娘の一面も備えている。結局のところ、貪欲というか行き過ぎた欲望を漠然と戒めているだけなのかもしれないが、訳者・塚崎幹夫も指摘しているとおり、千代の白い腿に惑わされる蛸の「好色性」が感じられてならない。(つづく)


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