萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

文学閑話:文月の薔薇×紀貫之

2014-07-31 23:00:00 | 文学閑話韻文系
夏初めの薔薇



文学閑話:文月の薔薇×紀貫之

我はけさ うひにぞ見つる 花の色を あだなるものと 言ふべかりけり 紀貫之

僕が今日の朝、初めて見た花の色は色っぽくて、でも儚いって言うべき?
初めて見た君の朝の貌は薔薇の花みたいに艶やかだった、でも最初で最後になる?
あんまり綺麗だから幻のように儚く想えて、けれど幸せで忘れるなんて出来そうにないのに。

これは『古今和歌集』に載ってますがバラの花を詠みこんでいます。
「我はけさ」+「うひ」=「我は今朝 初ひ」と「我はけ さうひ」の二つ意味があり「さうひ」は薔薇の古名です。
今は薔薇を「バラ」と読みますが昔は「さうひ」「さうび」と読んでいました、で、ここで言う薔薇は何かって話ですけど。

庚申薔薇 Rosa chinensis 別名長春花

って種類だろうと言われています、
この薔薇は初夏が盛りなんだとか、で、7月終わりの今日に紹介してみました、笑
どんな花かっていうと薔薇の原種と云われ八重咲と一重咲きの二説ありますが色はいずれも紅紫色です。

BEST18ブログトーナメント




にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

にほんブログ村 写真ブログ 心象風景写真へにほんブログ村

blogramランキング参加中!

人気ブログランキングへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第77話 決表act.7-another,side story「陽はまた昇る」

2014-07-31 13:27:00 | 陽はまた昇るanother,side story
rime ice 氷結の時



第77話 決表act.7-another,side story「陽はまた昇る」

観碕さんとデュラン博士を訊くのか?二人の事を俺に訊きに来た男がいるんだ、馨さんと似ている男だよ、

この問いかけに何を答えたら良いのだろう?
父と似ている男なんて一人しか知らない、でも解らない。
だってこんな所まで追いかけて来るなんて納得出来なくて、けれど父の旧友は尋ねた。

「やっぱり周太くんは彼を知ってるのか?あれは他人の空似とは違う、馨さんと表情が似すぎているんだ、英語の発音までそっくりで、」

ほら、真直ぐに核心を見つめてくる。
もう五十歳を過ぎるはず、それなのに鳶色の瞳は少年のまま澄んで揺るがない。
この眼差しが見つめていた父は幸せだったろう、そんな想い静かな雪窓で問いかけた。

「田嶋先生、その人はいつここに来たんですか?…年齢や身長は?」
「9月半ばだ、俺の公開講座の時だよ、」

答えてくれる日付に鼓動そっと穿たれる。
いま12月の雪の午後、もう3ヶ月前になる別離の朝の日だ?

―英二あのとき泣きそうで、だけどあの後ここに、

5時半に起こして?そう告げて5時半に第七機動隊舎を出た。
それでも英二は追いかけてくれた、あの門で別れて、そして切長い瞳は泣いた。

『逢いたかったから走って来た、…周太、』

告げてくれる綺麗な低い声も震えていた、あの泣顔は嘘じゃない。
けれど涙の底では田嶋を尋ねると決めていた、その裏腹な貌を辿るまま言葉は続く。

「180cmはあったな、色白で細いが肩と胸が厚くて鋼みたいな印象だ、あれはアルパインクライマーの体だよ?二十後半くらいに見えたが、」

告げられる特徴どれも懐かしい俤を象ってゆく。
あの人がここに来た、そして尋ねた質問たちに解らなくなる。

―どうして英二ここにも来たの?お父さんの友達だって僕が言ったから?でも、なぜ、

なぜ英二は「観碕さんとデュラン博士」を訊いたのだろう?
どうやって英二は二人の存在を知ったのだろう、それが解らないまま父の友人が言った。

「大伯母が湯原先生の教え子だと彼は言ったよ、祖母が大伯母を懐かしがるから俺の講座に来たと言ってな。周太くん、心当たりあるかい?」

ほら、英二はこんなヒント遺して?

―嘘吐いていないって言いたいんだ、英二は…いつか田嶋先生が僕に訊くことを見越して僕にゆだねてる、

英二の祖母、顕子の従姉は自分の祖母である斗貴子。
だから正確には従姉大伯母にあたる、その血縁を英二は正直に告げていった。
きっと英二なりの誠実だ、そう解かるけれど今は答えるべきか途惑うまま周太は首振った。

「二十代後半ですよね?解らないです…親戚のことは何も訊いていなくて、」

嘘は吐いていない、だって「二十後半」の男は知らない。
そんな言い訳は詭弁だと自分でも解かっている、それでも言うべき時ではないだろう?

―言って良いなら英二が自分で言ってる、でも言わなかったんだ…巻きこむかもしれないから、

この学者を巻き込みたくない、そう英二も想ってくれたのだろう。
その判断は自分も同じで、けれど父のアイザイレンパートナーは微笑んだ。

「じゃあ俺の幻かもしれんな?馨さんに逢いたいって願望が現実化したんだろ、誰なのか何も言ってくれんかったし、」

逢いたい、

その気持は自分こそ同じだ、自分だって父に逢いたい。
逢いたくて今も父を追いかけ祖父を探してここに居る、その願い同じ人に笑いかけた。

「そんなに父と似ていたんですか?」
「ああ、本人かって思うほど似てたぞ?笑った感じが特にな、」

笑って教えてくれる瞳がすこし寂しげでいる。
この人も父の名残を探してきた?そんな想いに熱い紅茶すすりこんだ前、鳶色の瞳が微笑んだ。

「あの日は公開講座でな、もう誰もいなくなったと思って大教室の電気を消したら足音が聞えたんだ。それで振り向いたら彼が立ってたよ、
講義ありがとうございましたって馨さんそっくりの目と声で笑ったんだ、暑い日だったのにワイシャツの袖捲ってないとこも馨さんと同じでな?」

温かな湯気くゆらす向かい、低く透る声が話してくれる。
英二と父の声は違う、それなのに田嶋は「そっくりの目と声」だと教えてくれる。
それが気になって続き知りたくなる、本当は別のことを訊きに来たけれど聴きたいまま父の友人は笑った。

「俺は本気で馨さんが還ってきたと思ったぞ?俺の講義を聴きに来てくれたって泣きそうになっちまった、嬉しくて待ってくれって呼びとめてな、
振りむいた顔はやっぱりよく似てたよ、でも目線の高さが違うから別人って気づいて年齢も違うぞって思いだしてさ?だけど英語の発音も同じだった、」

父と英二は身長が5cmは違うだろう、だから「目線の高さ」が違うのは当然だ。
そんな納得と「そっくりの声」と英語の発音に意図が解かるようで鼓動また軋みだす。

―英二、お父さんと似ていることを利用したんだね?田嶋先生に話させるためにお父さんを真似て、

父の貌で現れる男は、ここだけじゃない。
少なくとも新宿署で2度は現れた、そう知っているから解らなくなる。
どうして英二は父の貌を見せに行くのだろう?その結末を探すまま低く透る声が続けてくれる。

「馨さんと同じアクセントでSonnet18を詠みあげたんだ、この研究室で今みたいに茶を出して、そしたら馨さんの本を迷わず手にとって開いたんだぞ?
その貌も声もあんまり似てるから血縁者だと思ったんだ、顔や話し方だけじゃなくて空気が似てた、特に目だ、どっか寂しくて深い、穏やかに見透かす目、」

やっぱり、英二がここに来た。

それは憶測じゃ無くてもう事実だろう、それくらい解かる。
その目的は自分と同じだったろう、けれど出遅れてしまった自分との差が解らない。
どうして英二はいつも自分より先回りできるのだろう?この疑問くゆらす紅茶の湯気ごし問いかけた。

「田嶋先生、その人とどんな話をしたんですか?」
「さっき言った通りだよ、観碕さんとデュラン博士の事を訊かれたんだ。俺からも馨さんの理由を訊いたぞ?」

鳶色の瞳やわらかに細める言葉へ鼓動が傷む。
この人も父の理由を知りたがっている、その願い佇む研究室の窓は雪すこし強くなった。
さらさら白い影はガラス掠めて積もりだす、それでも確かめたいまま低く透る声が続けてくれた。

「湯原先生が、君のお祖父さんが二人とどんな関係だったか細かく訊かれてな、馨さんそっくりの笑顔には嘘吐いてもバレるんだろって感じたぞ?
だから正直にぜんぶ喋ったさ、その代わり俺にも馨さんが黙って消えた理由を教えろって泣きついたんだ、そしたら俺を信じてるからだって言われたよ、
約束は終わらないと信じて消えたって言われた、俺と馨さんの全部を知ってる貌でな?馨さんから話を聴いたのか、日記を読んだのか、全て解ってる貌だ、」

いま、なんて田嶋は言ったのだろう?

「あの…日記って、父の日記ですか?」

そんなものあったなんて知らない、でも存在する?
事実なのか知りたくて問いかけた真中で父の友人は笑った。

「ああ、馨さんの日記だ、ラテン語で書いてるヤツあるだろ?大学の入学式からずっと続けてるんだよな、」

どうして?

どうして英二はいつも自分の先回りするのか、ずっと不思議だった。
その理由が今告げられて解かってしまう、この事実そっと呑みこんで笑いかけた。

「そうみたいですね…なぜラテン語で書いてるのかなって想っていました、」

本当は今そう想っただけ、でも根拠の記憶はちゃんとある。
だって自分の植物採集帳に父はラテン語で学術名を書いてくれた、その原点は「日記」にある?

「あれは湯原先生に勧められたんだ、俺も同じこと馨さんに言われたぞ?」

闊達なトーン笑って教えてくれる顔は懐旧に温かい。
この温もりに今は甘えたくなる、そんな想いごと尋ねた。

「ん…父は田嶋先生になんて言ったんですか?」
「ラテン語で日記を書くことが西洋文学の本当の理解になるって言ってくれたよ、最初の穂高でな?」

懐かしい、そして愛おしいと低く澄んだ声は笑ってくれる。
こんなふう真直ぐに父と祖父を偲ぶ人がいる、その感謝と幸せだけ今は見つめて紅茶ひとくち啜りこんだ。

ほら、あまい湯気は温かい、父が淹れてくれたように。



(to be continued)

にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

心象風景写真ランキング

blogramランキング参加中!

人気ブログランキングへ
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚168

2014-07-31 07:41:04 | 雑談寓話
雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚168

正月2日夜、御曹司クンを和ダイニングに放置して先に帰って、
花サンに電話してから歯医者メール返信した後に御曹司クンからメールが着た、

From:御曹司クン
本文:なんでいきなり帰るんだよ?そんな怒るなんて田中さん誘ったから?
   俺と田中さんが一緒してもおまえに怒る権利なんて無いだろ、俺だって自由にデートしていいじゃん?
   おまえが俺のこと本気で好きでつきあってくれてるんなら怒られて当り前だって思う、それなら俺だって謝るけど。

本気で好きでつきあってくれてるんなら、ってトコで御曹司クンの意図が解かりすぎて嫌だった。

なぜ花サン=田中さん(仮名)を誘ったのか?

その理由は花サンを好きだからっていうのもあるだろう、
けれど「好き」であることすら利用するような意図がムカついて苛立った。

“怒る権利なんて無い、でも好きで付合ってくれてるんなら怒られて当り前”

そんな言い回しは「付き合ってる」と言われたがっている。
ようするに告白をさせるために花サンを人質にした?そんな御曹司クンを嫌いになりそうだった。

ほんと明日次第では嫌いになるかも?

そんなこと考えながらメール無視したまま眠って、
明けて3日の朝は車で花サンを迎えに行った、で、花サンの家族と久しぶりに会った、笑

「おはようございます、花のコトいつもありがとうございますね、ワガママ言ってないかしら?笑」
「こっちの方がワガママ言ってますよ、いつもお世話になってます、笑」
「トモさんもワガママだけど私のがワガママよ?笑」

なんて会話してから花サン乗っけて出発して、
とりあえずコンビニ寄って飲み物買ってからいつものルートで山中湖へ行った。

「雪あるねー道路は少なめだけどチェーンの音がなんか良いなー笑」

なんてカンジに花サンはご機嫌で、
午前中の雪の湖畔は静かで凍結した湖面は真白だった、

「すごい、降りようよトモさん?白鳥が湖面を歩いてるよ、笑」

で、降りて登山靴に履き替えて、
踏んだ雪はざぐざぐ鳴った、それだけ夜は冷え込んだの解かる。
富士山も真白に凍てついて雲の変化めまぐるしかった、そんな空と山に花サンは笑った、

「富士山ほんと真白だねー太陽を反射してるトコ眩しいし、息も真白っ、笑」
「鏡面状態になってるね、笑」

なんて会話しながら雪を歩いて、
湖面の風すこし冷たかったけど寒さも楽しいって顔してくれる相手に雪玉ぶつけてやった、笑

「あっ、もーなにすんのトモさん、コート雪まみれになるっ、笑」
「こんだけ雪あったら雪合戦だよね?笑」
「あーホント子供だ、でも私もっ、」

ってワケで軽く雪合戦して、
コートに登山靴+ゲイター履いてるからフットワークは軽くて楽しめた、
ソンナ感じに社会人ふたりで雪投げ合ってるうち花サンの白い頬が真赤になって、ホントに笑ってくれた。

これならホントに話せるようになったかな?

そんなふう推し量りながら素手も真っ赤になって、
で、休戦を提案した、

「手が真赤になったからお茶しよ?風邪ひくし、笑」
「ほんとだー手が真赤だ、笑」

なんて花サン掌を見て笑って、その手首に訊いた。

「花サン、猫と遊んだ?」

訊きながらNoだってホントは解ってる、だけど花サンの左手首は傷だらけになっていた。

「え…」

紅潮した顔のまま目が大きくなって見つめてくれる。
ゆっくり瞬いて潤みそうで、それでも意地張りたがる目に言った。

「新しい傷痕だろ、それ。年末はそんなの無かったよね?」

手首には古い傷痕、その上に新しい傷痕3つほど刻まれていて、
それが何を意味するのかなんて見れば解かる、そのまんまに花さんは言った、

「…お母さんも見ないフリしてたのに、なんで訊いてくれちゃうの?」
「訊くに決まってるだろ、怪我してたら、」

訊きながらその手首を握りしめて花サンの貌を見て、
その大きくなった目が悔しそうに笑って言った、

「私が自分で切っただけだよ?トモさんには解らないよ、こんなの…言ったって解らない、」

解らない、って言葉は線引きするためにある。

相手を解かろうとしないのも、相手に解かってもらおうとしないのも、どっちも拒絶。
自分だけしか解らない、そんな理由で自己満足に閉じこもる臆病は憐れすぎて哀しい。
そんな憐れな存在になってほしくないから思ったまま言った、

「死ぬために切ったんじゃないだろ?」

この人は自分から死のうなんて絶対に出来ない、そう解ってるから言えるまま言った、

「痛みで生きてる確認してたんだろ?ちゃんと生きてこの世にいるぞって確かめて、ソレくらいしないと心が死にそうなほど辛かったんだろ?」

握りしめた手首は細くて白くて、だけど傷まみれだった。
それでも彼女の手は本当は逞しいって知ってる、だからそのまんま言った、

「花サンの手は小さい頃から綺麗なもの作りだしてきたよね、そうやって人を笑顔に出来るってスゴイことだよ?だから傷つけたらダメだ、
花サンの手を傷つけたら誰かが笑顔になる可能性も壊すことだろ?花サンが知らなくても花サンの手は必要だよ、だから大切にしてほしいんだけど?」

彼女の家はいわゆる伝統文化の継承している、だから彼女はその後継。
そのために休日を費やす事もある、それは甘い世界じゃない、他人には解らない重圧も辛さもある、
一人で泣いた事もあるだろう、それでも喜びがあることも彼女を見て知っている、だから思ったまんま言ったら花サンは泣いた。

「どうして解かっちゃうの?こういうの…リスカしてない人で解かってくれるって普通、無いんだから、」

ちゃんと理解できた、それが単純に嬉しかった。
もう線引きされない、そんな泣笑い顔に笑ってやった、

「じゃあ普通じゃないってこと?笑」
「かも?泣笑」

赤くなった目で笑ってくれる貌は頬も真っ赤で、それでも晴れやかな笑顔は綺麗だった。

だけど彼女がリストカットして泣いた理由はちっとも晴れやかじゃない、
痛みを確かめないと死にそうなほど花サンが辛くなる、それは昨日今日の問題じゃない。
その引金をひいた理由にこれから向きあう予想は当然で、その原因が哀しいから悔しくて、御曹司クンを許せそうになかった。


Aesculapius「Saturnus30」読み直したら校了です、
校正ほか終わったら第77話か短編連載の続きを予定しています。
この雑談or小説ほか面白かったらバナーorコメントお願いします、続けるバロメーターにもしてるので。

取り急ぎ、



にほんブログ村 小説ブログ 純文学小説へにほんブログ村

にほんブログ村 写真ブログ 心象風景写真へにほんブログ村

blogramランキング参加中!

人気ブログランキングへ


PVアクセスランキング にほんブログ村
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする