雑音

電車の中での安眠を妨害されてしまった。

中年以上に良く見る癖、あの鼻をいびきのようにすすり上げる「豚の鳴き声」のことである。
もう体にしみ込んだ癖は、そう直るものではない。
また悪いことに本人はヘッドホンをつけているので、自分が発している音量がいかほどのものであるのか判断が付かないのだろう。

しかしひどかった、年齢はあきらかに学生風なので２０代前半であり、「豚の鳴き声」を連発させる。あれではのどが痛んでしまうのでは、とこちらが心配になってくる。

もっといやな癖もある、これも中年以上に見られるが、食事中あるいは食後に「ちゃっ、ちゃっ」とか「シー、シー」と歯の間に挟まった食べ物をすう音。

これも本人は気持ちが良いのかも知れないが、回りは不快なものだ。コーヒーを日本茶をすするようにのむほうがまだまし。

ただし、最近気付いたのはどうも入れ歯と歯茎の間に挟まるケースが結構あるようで、当人にしては早いところその不快感から逃れたい一心なのかもしれない。すこしは同情する、ほんの少しだけれど。

そんなことをうつらうつら考えているうちに、隣の兄ちゃんの鳴き声が止まっていることに気付く。

どうした、と思ってみると、口を大きく天井に向けて開け爆睡中だった。

寝ると静かになるのだな、私とは逆のようだ。

眠っている人は起こさぬ、というのが未開民族に共通した掟である。それは眠っている間は霊魂が不在であり、戻ってくる間がないかもしれないという理由によるものである。
フレーザー「金枝篇」