快読日記

日々の読書記録

「父・金正日と私 金正男独占告白」五味洋治

2020年07月23日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
7月23日(木)

「父・金正日と私 金正男独占告白」五味洋治(文藝春秋 2012年)を読了。

筆者と金正男の出会いは2004年。
意外とスルッと始まったメールのやり取りは一時中断を経て復活し、
2011年1月には長時間インタビューが実現、
その後もメール交換は続き、2011年12月の金正日死去を受けて、年明けのメール、というあたりまでのやりとりが収められていています。

この前読んだ 「追跡 金正男暗殺」(乗京真知 朝日新聞取材班)によると、
後継者指名を受けた異母弟・金正恩が正男暗殺の命令を出した(らしい)のが2011年のことなので、
このころはもう、カウントダウンが始まっていたんですね。んー、切ない。


金正男のメールやインタビューの語りにはどれも好感が持てます。
北朝鮮の世襲には反対、社会主義理念にも反している、という主張や、
北朝鮮国民の豊かな生活を心から望み、「北朝鮮と日本の間の不信感が解消され、両国が近い隣国として過ごせたら良いですね」という発言からも、彼を指導者として担ぎ上げたい人たちがいたことに納得します。

でも、結末は違っていました。
正男が「対面したことがない」という異母弟に暗殺されるのは2017年です。
それを知った上で本書を読むことは、迷路をゴールから逆にたどるような経験になりました。


現在、金正恩の健康不安、もはやイエスマンしかいないと言われる彼の周辺、コロナ禍、深刻な経済難、核開発、諸外国との関係などなど、問題を山ほど抱える北朝鮮について、もしまだ金正男が生きていたら予想以上に率直なメールを読ませてもらえたかもしれません。
でも、そうした発言が平壌にも伝わり、命を縮めたわけです。