ときぐろ日記

●ときぐろの育児日記。主に、アトピー+魚鱗癬を持つ「うちの王様」ユウの日々を書き留めています。

結局ただの風邪

2016年01月28日 05時26分07秒 | アトピー・魚鱗癬

 また、息子が学校で熱を出しました。
 今まで、何回保健室に迎えに行ったか分かりません。

 魚鱗癬で皮膚のバリア機能が働かないということは、感染症にかかりやすいということ。
 私自身も体が丈夫な方ではなく、年に二~三回は学校を休んでいたのですが、魚鱗癬の息子はその比ではありません。
 この秋から冬にかけて、熱や喘息で何度休んだことか……いちいち数えていられないくらいです。

 今回は熱が急激に上がり、頭痛や腹痛、食欲不振に関節痛といった症状がありました。
「腰や太ももが痛いんです。ぶつかったとかそういう痛みではなくて、内側から弾けそうな感じの痛みです」
 府立病院の時間外窓口で、小学六年生の息子はハキハキと若い医者に症状を訴えました。それまでは待合室の椅子で横になっていたのですが、診察室では打って変わってシャキッと雄弁でした。
「咳も少しありますが、ぜーぜーは出てないです。腹痛は治まりました」
 息子の隣でただ頷くだけの私。
 ……なんか、この場に私いらなくない?
 そう思えるほど、息子は自分で全部しゃべりました。

 インフルエンザの検査は陰性。でも発症二十四時間以内ということもあり、結果の信憑性には疑問がありました。
「明日は学校に行かない方がいいですね。インフルエンザの初期の初期かもしれません。もしくは怖い病気が隠れている恐れもあります」
 息子が待合室の長椅子で再び横になっている間、私は一人医者に呼ばれてそのように前振りされました。
 嫌な予感に思わず生唾を呑む私。
「正直、この後の説明を聞くのが怖いんですけど」
 心の中でつっこみを入れている間にも、医者の話はどんどん進んでいきます。
「今のお子さんの症状に加えて紫の斑点が出てきたら、紫斑病です。この年代のお子さんに多いんです」

 ……紫・斑・病………………。

 はい、私の頭は真っ白に。

 病名は耳にしたことがありますけど、具体的な症状や予後は知りません。「確かに怖い病気だ」とだけ認識しました。

 帰宅後、目を血眼にして「紫斑病」なるものをググり続けたのですが、一口に紫斑病といっても種類が分かれていて、原因や治療法なども違っているようでした。
 紫斑病は、紫斑を主な症状とした病気全般のこと。紫斑とは、出血しやすくなってしまい、血管から皮膚や粘膜に内出血が現れて紫色になったあざの部分。腎炎を合併する場合も多いみたいです。

 魚鱗癬で褐色にひび割れた息子の足を視診して、医者は言いました。
「紫斑は出ていないようですね」
 そして医者は息子にも問いかけました。
「紫色の斑点が皮膚に現れたことはない?」
「ないです」
 息子が即答すると、若い医者は私の顔を見て言いました。
「恐らくただの感染症だとは思いますが、念のために注意して観察して下さいね」
「はい、分かりました」
 何とも複雑な気分で「ただの感染症で済みますように」と内心祈りながら私は返事をしました。

 そういうわけで、この日は解熱剤のみ処方してもらって帰宅しました。

 翌日。
「ユウ、ちょっと腕と足見せてや」
 息子の両腕両足を確認する自分がおりました。
 しかし、相変わらず地肌がザラザラで、水分が枯渇した褐色のひび割れた大地に白い粉の吹いた両腕両足。
 おまけに、ひび割れの一つ一つの中に、核のような褐色の粒が入っていたり入ってなかったりします。掻き壊したのか、ひび割れに赤紫のかさぶたが混じっている箇所もあります。
「……………………えっと……」
「お母さん、どう? 紫の斑点出てへん?」
 息子の恐る恐るの質問に、私はちゃぶ台をひっくり返したい心境で叫びました。
「こんな状態の皮膚で分かるかいやー! 肌にクリーム塗ってこいっっ」

 いつもは肌にクリームを塗るのを嫌がる息子も、さすがに素直にクリームを塗り、再度私の目前に細腕を突き出しました。
「これでどう?」
 クリームを塗った部分の肌は、白い粉がなりを潜めて褐色の大地が露になっていました。核のような濃い褐色の粒は健在で、これが紫斑の斑点なのかそうでないのか、判断がつきません。
「やっぱり分からへんわ」

 素人には魚鱗癬の肌の更なる異常を発見することが難しいと気づいた私は、小児科の権威に聞くことにしました。
 かかりつけ医なんですが、元府立病院勤務、独立して小児科医院を開業された先生で、テレビや新聞の取材なんかもたまに来ています。

 もう一度インフルエンザの検査をして陰性反応が出て、診察の時私は小児科の権威に聞きました。
「昨日、府立病院で紫斑病の恐れがあるって言われたんですけど」
「ぶわっはっはっ」
 小児科の権威は吹き出して、私の心配を笑い飛ばしました。
「紫斑病は熱出ぇへんで? 何でそないなこと言ったんやろな。まぁ、症状は確かに似てるけどな」
 そしてズバリ一言。
「ただの風邪や」

 結局、一服の薬を処方されることもなく(抗生物質すらなし!)、私たち親子は小児科医院を去ったのでした。

 

「よかった」
 帰り際、息子がホッとした表情で呟きました。

 息子はアレルギー体質だし、魚鱗癬・喘息・片目は近眼で黒目の端が一部見えてない。
「これ以上病気が増えたらたまらないよ……」
 私も安堵しながら内心呟きました。